第163話 変わり果てた女⑤

美紀の所に慌てて水を持っていく。


「ごめん、ごめん」


「喉がくっついてるぅ~」


俺は、首を持ち上げコップで水を飲ませる。

うまく飲めなくて口から水がこぼれる。


「あ~あ・・・ちゃんと飲めよ」


こぼれてしまいうまく飲めない。


「しょうがねえなあ」


俺は、水を口に含み口移しで飲ませる。

美紀は勢いよく飲み始める。

俺の口の中の水が一気になくなる。


「もっと?」


美紀は、うなずく。

また口に含んで飲ませると、美味しそうに飲んでいる。


「そうだ!ちょっと待ってて」


俺は、台所にいって冷蔵庫を開ける。


「これこれ」


氷を出して持っていく。


「ほら、氷。これ食べな」


口の中に氷を入れる。


「うまいか?」


美紀は、うなずく。


「そっか、そっか」


しばらくすると美紀は、眠ってしまう。


「寝たか?」


美紀の顔は、汗と涙とよだれで酷い有様。

俺は、ぬるま湯で濡らしたタオルで顔をきれいに拭く。

そして、軽くおでこにキスをして隣に添い寝する。


(がんばってるよなあ)


「しかし、どれくらいやれば禁断症状ってなくなるんだろう?」


俺も疲れていたのか、いつの間にか眠ってしまう。


何時間たったのだろう?

激痛で突然目が覚める。

また隣で美紀が暴れている。

激痛の原因は、美紀のボディブローが俺に炸裂していた。

急いでタオルを口に入れる。


「ん?声は出てなかったか?」


美紀は、呼吸がしずらそうにこっちを見てうなづいている。

苦しそうなのでタオルをとっってやる。


「大声出したらまたタオルね」


「うん」


しばらくすると我慢が出来なくなったのか、声を出して騒ぎだす。


「ほれ、タオル」


美紀はすぐにくわえる。


声を張り上げて騒ぎ出した時は、タオルを噛ませ、おさまったら取る。

その繰り返し。


(この状況で他人が見たら、俺は犯罪者だな)


手首や足首に紐が食い込み、赤黒くあざになって痛々しい。

禁断症状が出ている時は、泣いて外してくれと懇願する。


「泣くなって」


「・・・」


「そんな目で見るなって・・・」


その泣いている姿を見ていて何故か俺の目からも涙が落ちていた。


美紀は、暴れて疲れ果てて眠る。

禁断症状で目覚めてまた暴れだす。

そして、眠る。


それが二日ほど続いただろうか。

俺自身も疲れている。


(さすがにしんどいな・・・)


美紀は、食べ物を受け付けない。

仕方がないので、果物の汁とか作ったお粥を無理やり口に流し込む。

落ち着いている時は、自分から口をあけてくれる。


「しっかり食べろ。食べないと、もたないぞ」


物足りなさを感じながら、俺も同じ物を口に入れて体力を補う。

汗をかくので何十回と体を拭いて着替えさせる。

洗濯機はフル稼働。

歯も磨いてやる。

手足を縛られているので仕方がない。


「お前は、至れり尽くせりでいいなあ~」


「わたし、赤ちゃんみたい・・・ははは」


(笑えるくらいまで元気になってきたか・・・)


何度かはずそうと思うが、暴れっぷりを見ていると思いとどまってしまう。


実は、この方法をやりながら途中で一つ問題を発見していた。


それは、トイレだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る