第178話 何故逮捕11

朝、起きて房の扉が開きみんなで顔を洗う。

いつものように会話もなく静かに黙々と歯を磨いている。

体を拭く者、顔を洗う者、様々。


同室の男は、最初に来た日に隣で身体を拭いていた人だというのを気付く。

刺青のない場所がないくらい全身にびっしりと絵が入っている。

俺は、その時に周りを見渡し初めて気付く。


(こういう所って刺青をいれた人が多くいるんだなあ)


何をしてここに世話になっているのはわからないが、ほとんど暴力団の人かと思ってしまう。


この時代は、刺青=やくざ。

外ではこわもての人達もここでは威張っている人は、ほとんどいない。

恐怖感は感じない。

みんな気の良いおじさんって感じ。


もう1人の男は、その日の午前中に出かけたまま戻って来ない。


「もう1人の人、戻ってこないですね」


「あいつは、もう罪が決まって拘置所に移動だな」


「そうなんですか」


(拘置所?どこだそこは?)


いまいち俺は、犯罪者達がどこに連れて行かれるのか仕組みがわかっていない。


「薬は、一発で実刑だから」


「へ~」


「特に俺達ヤクザはな」


(やっぱり二人ともやくざだったのか・・)


話をしていても、俺は一つの事で頭が一杯で上の空。


昨日から朝食、昼飯、夕飯としっかり食べている。

しかし、大便はしたいのに我慢している。


(うう・・もう限界)


腹が痛くなってくる。


(もれそう・・・やばい)


もう限界。

俺は、声を出すのも苦しい状態だったが、か細い声で男に言う。


「すみません。トイレしていいですか」


「ああ、いいぞ。大きいほうか?」


「はい」


「お前、全然しないから、便秘なのかと思っていたぞ」


「いや、そういうわけでは・・・・」


急いで便器に向かう。

パンツを下げしゃがむかどうかの瞬間、一気に出てしまう。

音を出さないように気を使う間もなくすごい音が鳴り響く。

ケツは丸出し。


「元気なやつだ。それに臭いもすごいな」


大笑いしながら言われる。

その言葉を聞いて、少しホッとする。


俺は、まだ接見禁止がとれないので雑誌が貸してもらえない。

同室の男は雑誌を読んでいて、それを見せてもらえるか頼んでみる。


「いいですかね?」


「ああ、平気さ。看守もそこまで厳しくは言わないさ」


「ありがとうございます」


「本も読めないじゃたいくつで仕方なかっただろう?」


「そうなんです。時間が長く感じて」


「だよな」


今日までは、何ともなかったのだが雑誌を見て困った問題が起きる。


(やばい!)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る