第177話 何故逮捕⑩
風呂の事を除けば、留置場の生活は三食昼寝付きと過ごしやすい。
(これであとテレビがあれば、何も言うことないんだけどなぁ)
俺は新聞や雑誌を読ませてもらえないので、外で何が起きているのかさっぱりわからない。
自由を奪われて規則正しい生活をする事によって感じた事がある。
それは、食べる事がとても楽しみという事。
ここの中では動いてカロリーが消費されて腹が減る事はない。
それでも腹は減る。
当たり前の事だが食事のメニューがどんどん気になっていく。
のどが渇いても好きな時に飲み物が飲めない環境。
起きてから朝の白湯がとてもうまく感じる。
昼間は決められた弁当と追加で出前も注文できる。
(刑務所の臭い飯って聞くけど務所の飯はまずいんだろうか?)
「今は飯だけが楽しみなのに・・・」
(ムショなんて、行きたくない)
自分のお金で洗面道具や追加の弁当など買う事を自弁と言うらしい。
ただ一つ、最後まで慣れなれなかったのは、トイレ。
腰までのついたてがあるだけで、囲われてもいないので丸見え。
立ちながらの小便は、シンボルは丸見え。
大便は、静かにする事も出来ず、おならも出るし排泄時の音も出る。
匂いも・・・。
水も看守に大声で言わないと流してもらえない。
流しながら用は足せないので、すべて出し終るまでに匂いが部屋中に広がってしまう。
(狭い部屋に何人もいたら、する方もされる方もたまらないだろうなぁ)
俺は、部屋に一人だったから思う存分、気兼ねなく出来る。
しかし、しばらくして看守の一言で一気にテンションが下がる事になる。
朝食が終ると便水を頼む声が響き渡る。
そのすべて流れるまで、臭いが留置場内に充満する。
他の部屋からは聞いていて、恥ずかしくなるくらいすごく大きな排泄音が聞こえてくる。
(みんなすごいな、平気なんだ)
2日たって検事との調書が書き進み、部屋に戻ってくつろいでいると突然看守の声。
「おい、引越しだ」
「え?どこにですか?」
「雑居房だよ」
「マジかあ・・・」
一気にテンションが下がる。
引っ越しるといっても荷物が何もないから身体一つの移動。
「あはは、これはこれで楽チンだ」
何人かいる部屋に移される。
と、言っても二つ隣の部屋。
「ここだ。同じ部屋の人達に挨拶しろよ」
「はい」
(いよいよこの時がきたか・・・気持ちがブルーになるよなぁ)
部屋の中にどんな人がいるのかという事よりトイレの件で頭の中が一杯。
「よろしく、お願いします」
「おう、よろしくな」
「よろしく」
ここには、二人。
俺を入れて三人になる。
食事や布団を奪われたり、リンチがあったりするのではと緊張する。
(それって刑務所の話だったかなあ?)
テレビや雑誌の見過ぎかもしれない。
俺は初対面で何も話す事もできずに黙ったままでいる。
何事もなく夜が更けて朝を迎える。
突然思い出す。
(あっ!この人って確か・・・)
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