第62話 銀座の女④
俺は、いつも女の部屋に行くと物色する癖がある。
別に粗探ししているわけじゃなく、ただの好奇心。
トイレにいったとき風呂場を覗くと歯ブラシやコップなどが揃いで二つ置いてある。
(お!これは、男いるな)
部屋に入り男の匂いを感じていたが、これで確信する。
敢えてかおりにそれを話すこともなく、普通にやり過ごす。
「ご飯食べるでしょ?」
「うん」
「あんまり、たいした物は作れないけど我慢してね」
「うん、大丈夫。だけど料理なんてするんだ?」
「私だって女よ~料理くらいするわ」
「ふ~ん。意外だね」
「まさか、銀座の女は料理なんてしないって思っていたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・」
意外に家庭的な一面を見て、俺には新鮮な光景に映る。
あの華やかな店の中で見るドレス姿とは、似ても似つかない姿。
「どうしたの?泣いてるの?何々?なんでー?」
「いや、あまりの後ろ姿の美味しさに・・・」
「まさか~冗談でしょ?」
俺は、女が食事の支度をしてくれて、それを食べる時いつも涙がでてしまう。
うれしさからこみ上げる感動なのかもしれない。
一生懸命、俺の為に作ってくれたという感激からだろうか?
二人で仲良く食べている時、いつも幸せを感じる。
数時間経った頃、かおりは何となく落ち着きがない。
「どうした?なんかソワソワしてない?」
「うん、ちょっとね」
「なんだよ~気になる言い方して、言えば?」
(男の話だろうな)
かおりは、ゆっくり話を切り出す。
「私、スポンサーがいるの」
「うん」
「あれ?驚かないの?男がいるのよ」
「いや、部屋に入ってすぐ男がいるのはわかったよ」
「そうなの?鋭いのね」
「誰でも気付くだろうよ。色々と二つ揃いの物が置いてあるからね」
「あ~そっか」
「いやいや、誰でも気付くでしょ」
かおりは、しっかりしているように見えて天然な所もある事が数回会ってわかっている。
「実は、ここのマンションも、その人が用意したものなの」
自分では言わないが、世間で言う囲われた愛人。
「だから、部屋には連れてきたくなかったのよねえ」
「じゃあ、なんで断らなかったんだ?」
「だって、あの場面で断ると嫌われるかと思って」
「断ったくらいで嫌う事はしないけどね」
「そう?それならよかった」
「でも、よく男の事を言う気になったね」
「だって彼の事は、隠していてもいつかばれると思ったし」
「ふ~ん、なるほど。いつかね〜)
(俺達、そんなに長く続くかな?)
「部屋に何回も来たら当然気付くよね?」
「誰でも気付くだろう」
「だよね~」
「それでかおりの落ち着かない理由は?」
(男が来るとか?)
「・・・・」
「もったいぶってないで早く言えよ」
「今日は、土曜日で店が休みだから、彼がここに来る日なの」
「おっとっと、それを早く言えよ」
「ごめん、まだ来る時間じゃないけど、言い出すタイミングが・・・」
「じゃないけどって、言われてもな。俺まで落ち着かなくなるよ」
「でもさ・・・」
「何?」
「でも・・・」
「だから、何だよ?」
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