第173話何故逮捕?⑥

次の日、決まった時間に刑事のお迎え。


「お前臭くないか?」


「そうですか?」


俺は、自分の身体に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ仕草をする。

臭いのは自分でわかっていた。


「やっぱり臭いますかねえ?」


「汗臭いぞ・・・中は空調がきいてて快適なはずだろ?」


「ちょっと運動してまして」


「運動って?」


「腕立てやら腹筋やら」


「疲れるから、やんなきゃいいのに馬鹿なやつだな」


「はい、今日からやらない事にします」


「それが懸命だな。汗かいたからって、すぐシャワー出来るわけじゃないからな」


「ですよね」


ここでは、自由に風呂に入れない。

日数が経つにつれて、全く自由に出来ない事を実感する。

看守に聞いたところ五日に一回くらいしか入れないそうだ。

着たきりすずめでパンツも替えさせてもられない


それに他にも問題が出てくる。

頭が痒くなりフケもすごい。

三日目で頭が痒くて目が覚める。

今まで2、3日風呂に入らない経験をした事がない。


「ううう・・・かゆい~」


俺は、頭を振りながら両手でかいた。


「よく浮浪者は風呂に入らなくて平気だなあ」


(ん?だから塀の中の人は、坊主にするのかな?)


この前の朝に隣の男が身体を拭いていた訳が今頃わかる。

取り調べ室のイスに座ると刑事が叫ぶ。


「さあ、今日中にやっつけるぞ」


「そうそう気になっていたんですけど、今日中じゃないとまずいって何ですか?」


「まあ、簡単に言うと捕まえてから48時間以内に調書を書いて検事さんに引き渡すんだよ」


「ふ~ん」


「よく送検って言われているのが検察官送致ってやつだな」


「そうなんですか」


(よくわからない仕組みだな)


「お前は、逮捕してから今日で48時間になるから急がないと」


「でもほんと思い出せないっす」


「いいよ、俺がだいたいの内容を今から言うからお前は「そうです」と答えろ」


「え~そんなのでいいんですか?」


(いい加減な刑事だ・・・)


そう言いながら刑事は最初から調書を書き出す。

俺は、読みながら書いていく調書を横で見ているだけ。

時折、質問される。

ほとんど刑事に言うがままの内容で書き込んでいく。


「さて・・・こんな所かな?」


「・・・・」


俺は、呆れ顔で刑事の顔をジッと見ている。


「おい、自分で読み返してみろ」


「はい」


「すべて読んでオッケーなら最後のここに名前書いて指で拇印しろ」


「はあ・・・」


俺は、最初から順を追って読み出す。


(さすがうまく書くものだなあ)


俺は、読みながら感心する。


「あれ?」


(ん?おかしいぞ)



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