第60話 銀座の女②

俺は銀座までやって来る。

俺は、待ち合わせ場所まで街並みや人を観察しながら向かう。


(ネオンとか同じ感じなのに歌舞伎町と人も雰囲気も全然違うなぁ)


「ごめんね、わざわざこんな所まで」


「結構、新宿から遠いね」


「車で来たの?電車ならそうでもないはずだけど」


「普段、電車乗らないから乗り継ぎとかわからないからさ。でもさすが銀座だね。歌舞伎町とは雰囲気が違うよ」


「そうかしら?私にはわからない」


俺はかおりの頭のてっぺんから足のつま先までゆっくり目線を配る。


「しかし、かおり・・・今日はビシッと決まってるね」


店に来た時と違って、派手に着飾っている。


「まあね。オープン初日だからね」


「じゃ行きますか~!女の花園に」


「何それ?バカじゃない」


「じゃあ、お水の世界に!」


「あなたもお水でしょ」


「あははは、じゃ俺の銀座デビューだ!」


「くだらないこと言ってないで、行きましょ。すぐそこだから」


店に到着して外の入口から沢山の花、花、花。

中もずっと花が続き、胡蝶蘭が多く目立つ。

店の中に入って何となく居心地が悪い。


(何か落ち着かない・・・何故だろう?)


店内は、うちの店の金ピカ、成金趣味と全く違う雰囲気。

ママの趣味なのだろう、高そうな絵や置物、花などがたくさん置いてある。


(超高級店って感じだな)


席に着いてから、更に違和感を覚えたのは沢山の視線。


(俺って目立っているのかな?)


席に黒服に案内されてから、しばらくすると隣にかおりが座る。


「かおり、なんかさ~俺だけ浮いてない?」


「そんな事ないわよ」


「客もホステスも絶対に俺を見てた感じするんだけど」


「そうかしら」


「まわりの客ってじじいばっかじゃん?」


「ちょっと・・・しっ!」


俺の口元を手の平で押さえる。


手でかおりの手を振り払う。


「だって、本当に事じゃん」


「銀座で遼ちゃんほど若い子って、滅多に来ないからね」


「あ~なるほど」


(そっか、ここって年齢層が高いんだ)


「あんまり気にしないで」


「ああ、全く平気だけどね」


「なら、よかった」


「でも、クラブの女がハゲとかジジイとか、よく言うけど理由がよくわかった気がする」


「もう~さっきから大きい声で言わない」


「ほんとにハゲとジジイばっか」


「こらっ!」


「俺みたいな若造は珍しいから、注目されたってわけか」


次から次とヘルプらしきホステスが、物珍しそうに席に着く。


「お若いのね~いくつなんですか?」


「いくつに見える?」


(ありがちな返しだな)


そして、その後に聞く事は俺の職業。


「何をやっていらっしゃるの?」


「そうだなあ」


(おいおい、銀座では年とか仕事とか聞いていいのか?)


「何をやっているのか当てましょうか?」


(俺達は、聞くのはご法度なの・・・男と女の違いかな?)


かおりは、俺の事は何も言ってない様子。

店に遊びにきた時のホステスの仲間は、ここには一緒に移ってないようだ。

だから俺を知る人間は、このクラブにはいない。


俺は、適当な会話で遊ぶ事にする。


「呉服屋の若旦那」


「ハズレ」


(俺、そんな風に見えるのか?)


「野球選手」


「あはは、まさか」


「難しいいわね」


「正解は・・・貧乏な青年実業家」


「あはは、貧乏な人がここに来られるはずないじゃない」


「じゃあ、宝くじが当った貧乏人」


「本当の事をいうつもりないのね。まあいいわ」


「謎の青年にしておいてね」


「はい、はい」


つまらない冗談でも笑ってくれて、楽しい時間を過ごす。

客としていると、いつもの逆の立場になっているせいか、いろいろ勉強になる。


「いくら?」


かおりは、一応俺に会計の伝票を見せる。



「お~さすが銀座。ボトルも入れなくても、座ってウン十万ってやつだね」


「座っただけでそんなにいかないわよ。じゃ売り掛けでって事でいいよね?」


「ん?払うよ」


「いいから、伝票見て演技だけしててよ」


「わかったよ」


(なんか色々とややこしいんだな)


それから少し雑談をして、帰る事にする。


「すみません、これ売り掛けでお願いします」


そう言ってかおりは、伝票を黒服に渡す。


(銀座の女は見栄を張る為に、いろいろと大変なんだな)


エレベーターに乗ると、かおりとヘルプの女が見送りの為に乗ってくる。


「そうだ。かおりに渡すものがあったんだ」


「なあに?」


「これ」






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