第94話 ホテル住まいの女達⑤
ユカは、従業員でもないのに店から皆勤賞をもらう。
店からの粋な、はからいだった。
月初めのホストだけのミーティングに女性が一人座っている。
「おめでとう!あなたは一日も休まず出勤しましたのでここに金一封を差し上げます」
「わあ~い。うれしい」
店長からの表彰。
金一封1万円。
特別扱いがうれしいのだろう。
ユカは本当に嬉しそうに笑っている。
(単純だな~店は何百万って使ってもらって一万円なんて痛くも痒くもないだろう)
「ユカちゃんは俺と同じ皆勤賞か~」
「いいお店ね」
「そうだね」
(単純な子だなぁ)
周りのホストがユカに寄ってきて、おめでとうの声をかけユカはそれに答えている。
その様子を見ながら隣に座っている相原が言う。
「毎日来させているのも、前のホストとヨリを戻させない為」
「なるほど」
(いったい、どう言いくるめたら、あ~なるのだろう)
相原からも学び取ることがまだまだありそうだ。
ユカは相原の客になって、さらに身体を酷使するようになる。
ソープの女性は月に一回、あえて薬を飲まない週がある。
その週は、月のものがきて仕事にならない。
自分で生理日を強制的にコントロールしている。
ユカも、そのはず。
しかしユカは、1日も休まず仕事に出ている。
(おかしいな)
「ユカちゃん、相変わらず毎日の出勤、ご苦労様」
「ありがと」
「アリスから聞いたよ。1日も休まず仕事しているらしいね?」
「そうよ。パパの為に稼がなくっちゃ」
「パパぁ〜?それって相原さんの事?」
「そう」
(パパか・・・アリスはダーリンって言ってたなあ~)
「相原さんを大好きなんだね」
「えへへへ」
(アリスは俺の事をなんて呼んでいるのだろう)
「ところでユカちゃん、毎日、仕事でてるんだって?」
「そう」
「一日も休んでないの?」
「うん」
「お店は毎日出勤なんて出来ないよね?」
(シフト制で休みがあるはずなのに、どうしているのかな?)
「シフトで休まされるよ。私は毎日働きたいけどね」
「じゃあ休みの日はどうしているの?」
「働いているよ」
「別の店?」
「そう、掛け持ちで働いているよ」
「別のお風呂屋さん?」
「違うよ、ホテトル」
「ふ~ん、そうなんだ・・・生理の週は?」
「同じホテトルでバイト」
「だって、あれは?」
「あ~それはね、秘密兵器があるんだ~」
「秘密兵器?」
(何だ?)
「あっ、そうだ!見たい?」
「え?持ってるの?」
「うん、バックにいつも常備してる」
「そうなんだ。見せてよ」
ユカは、バックの中から無造作に取り出し俺に投げつける。
「ほれ!」
「おっとと」
手から落としそうになり、しっかり握り締める。
「何だこれ?」
(スポンジ?)
「これで、中から出てこないように海綿をあそこに入れるの」
「海綿?何だそれ?」
「化粧の時に使うスポンジみたいなの。凄い吸収力なのよ」
「吸うのかぁ。そこまでして・・・頑張るね」
「あたし、身体が丈夫だから平気なんだ」
「そうは言ってもね~」
「心配してくれてありがとう。あたしねぇ、この仕事天職かもね・・・あはは」
ユカは屈託のない笑顔で笑う。
(この明るさが、みんなから可愛がられる理由なんだろうな)
「あんまり無理すんなよ」
「平気だよん」
最近ユカとは、毎日顔を合わしている。
いい加減話す事もなくなりそうなもの。
しかしソープの裏話や他の店のホストの話など話題は尽きない。
プライベートな会話も多く、俺にとって勉強になる内容ばかりだった。
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