第69話 思いがけない客
店で慌しく動いていた俺の動きが、凍りついて止まってしまう。
店になぎさが来ている。
(なぎさ・・・?)
俺は、一瞬目を疑う。
俺は、真樹があんな事になり店から離れた。
その後、なぎさがどうなったか気になっていたが・・・。
自分の事で精一杯だったので、ホストに戻ってもなぎさの事をすっかり忘れていた。
なぎさは、すっかり身体つきも戻り、最初見た頃のナイスバディに戻っている。
俺は、勇気ある今の指名者が誰なのか気になる。
(指名者は知っているのか?大丈夫なのか?)
リストを見てみると、全く話もした事もないホスト。
グループも違うし席に着く事ができない。
なぎさと、話をする事もできない。
トイレに立ったのを見て、すかさずトイレの前でなぎさが出てくるのを待つ。
「なぎさ」
「あれ?遼?」
トイレから出てきたなぎさは、俺を見て驚いた表情をする。
「久しぶりだね」
「何?ここにいたの?なんで、なんで?」
「しばらく業界から離れていたけど復帰したんだ」
「そうなんだ」
「なぎさも元気になったみたいだな」
「まあね」
「また前のナイスなボディになったね~」
俺は一歩下がって、なぎさを上から下まで見る。
「あはは。そんなにジロジロ見ないでよ〜私も色々大変だったのよ」
「だろうな」
「あの頃が懐かしいわね」
「・・・・」
短い期間だったけど、色んな事があり、それを乗り越えて今生きているのだろう。
お互いにいろんな思いが駆け巡り、なぎさは一瞬泣きそうな表情をする。
俺には、そう感じ取れた。
「だけどいつからこの店に・・・」
その言葉を遮り俺が先に質問する。
「真樹を殺した男は、何者でどうなった?」
もっといろいろ聞きたかったが、それを聞くのが精一杯。
「あんまり思い出したくないけど・・・私の前の男は、薬中毒者でやくざだったの」
「うん」
「動機は嫉妬ね」
「うん」
「今は刑務所」
「そうか」
「もう、よそうよ。この話」
「そうだね。俺・・・あの後、引きこもっていたんだ」
「そうだったの?」
「辛くてな」
(それにしても、またホストクラブに出入りしてるとは・・・)
言いたいことは山ほどあった。
あまり引き止めては指名者が心配して来るといけないと話をやめる。
しかし、俺と話し込んでいたのを指名者が見ていたようだ。
そばに寄ってきて声を掛ける。
「遼さん、なぎさと知り合い?よかったら座って下さい」
俺をヘルプでリストに書き込む。
俺は、うかつに変なことを話してもいけないし、今更何を話していいかわからない。
指名者に俺となぎさの関係を、聞かれるのも面倒だったので席には着かない事にする。
「店長、俺あの席はパスしときます」
「ん?どうした?」
「ちょっと昔わけありで、あんまりかかわりたくないから、よろしく」
「うん、わかった。指名者にはうまく言っとくよ」
なぎさの顔を見たのは、それが最後になる。
しばらくして、なぎさの指名していたホストも店を辞めていなくなる。
一瞬、俺の頭の中に嫌な記憶が思い出す。
(また?・・・)
店長から聞いた話では、二人は結婚して彼の実家の故郷に嫁いだらしい。
それを聞いてホッとする。
そのホストは、資産家の息子らしくなぎさは幸せになれるだろう。
(お互いの仕事は隠していくのだろうか?)
「俺には関係ないよな」
(幸せなら過去は関係ないか!)
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