第66話 ホストの寮③

「私、この三人にやられました~って」


「マジ?勘弁してよぉ〜」


女が手を上げながら会話していると目の前にタクシーが止まる。

女は笑いながらタクシーに乗り込む。


「冗談よ」


「だよね、人が聞いたら誤解されちゃうよ」


「ほんとよ~犯罪者扱いされるかも・・・」


「ほんと勘弁」


俺は、両手を合わせてお願いする。


「あははは」


「じゃ後でね。店わかるかな?」


「わからなかったら、店に電話するから迎えにきて」


「了解」


「じゃ店で待ってるからね〜」


「はーい」


タクシーが、走り去る。

俺は、タクシーが角を曲がるまで見送る。


「はぁ〜疲れた。すごい女だ」


部屋に戻り店に行く準備をする事にする。

ドアを開けると二人が支度をしている。


「送ってきました〜」


「遼、凄い女だったな」


「俺も圧倒されました」


「めずらしいよなあ、あんな子がいるなんて」


「彼女、来ますかね?」


「さあ、どうだろう」


心配をよそに彼女は電話もなく直接店に入ってくる。

相原が俺のそばに来て言う。


「遼、例の・・・来たぞ」


「あっ!ほんとだ」


「俺の客で飛んだひとみのボトルをセットしろ」


「ひとみさんもう来ないんですか?」


「ああ、売り掛けしたままトンヅラしたよ」


「あらら~わかりました」


俺は、急いでボトルを持って席に向かう。


「いらっしゃいませ~え~っと・・・あっ!そう言えば名前?」


「あはは!洋服の中身は知っていても、名前を知らないって?お馬鹿なホストちゃん」


「しぃー!」


彼女の名前を知らなかった事に、気付かなかった。

何とも、おかしな体験だ。

三人とも精一杯のサービスをする。

支払いはもちろん、いただかない。


俺達は、三人で彼女を外まで送る。

俺の耳元で囁いてくる。


「遼ちゃん、どう?もう一回戦」


「え?俺?」


「もう私・・・いらない?」


「う~ん。今日はもうお腹一杯です」


「あはは、正直な人ね」


「・・・・」


「また東京に来た時は、楽しみましょうね~」


「・・・うん」


(また三人で、って事かな?)


俺達は、見送りながらお互い言葉は出さなかった。


「遼、お前気に入られたのかもな」


「いや、またみんなで楽しみましょ」


「俺はもういいよ。お前に任せる」


「俺も〜」


「勘弁してよ〜」


この女のおかげで、俺達三人は世間でよく言われる兄弟という事になる。

俺の欲求不満も解消される。


「さて、仕事に戻るか!」


「はい!」


俺達は相原の後に付いて店に戻る。


由美が戻ってくる。


あのソープで体を壊して、芸者をやっていた女。

もう体調もよくなり、またソープランドに戻る為に東京に戻ってきたのだ。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る