第127話 客同士が親友

アリスが席に案内され、おしぼりで手を拭いている時に何気なく隣を見る。


「あれ?あゆみじゃない?」


「あ~アリスじゃん。久しぶり〜!」


二人が偶然、店で出会う。


「ねえ、一緒に飲まない?」


「うん、いいよ」


俺は、違う席でその二人の様子を見ていた。

店に響き渡る様な大声なので会話がここまで聞こえてくる。


(あちゃ~あいつら友達かよ~聞いてないぜ)


「指名者、誰?」


「遼」


「あら、あたしも遼」


「あはは、うける。そうなんだ」


(なんで笑う?)


「まずいかな?」


「いいんじゃない?」


(もう〜勝手に・・・普通まずいだろ)


俺は二人と目線が合わない様にしながら耳だけダンボになって聞いている。


「遼に聞いて見るね」


アリスが手を振りながら店に響く渡る大声。


「遼~こっち見て!来て来て!」


(あんな大きな声で呼ばなくても聞こえるっつうの)


俺は、アリスのそばに行く。


「遼、あゆみと一緒に飲んでいい?」


「おまえら、知り合い?」


「そうなんだ。アリスがソープ休んでホテトルに行ってた頃に一緒に働いてたの」


「あ~あの頃ね。アリス、声が大きいよ」


(職業をでかい声で言うな!)


と、思っても既に遅い。

周りのホストも知ってるだろうけど、知らない奴に敢えて知られるのも気持ちの良いものでない。


アリスは舌を出してから声のトーンを下げて答える。


「随分昔の話だよねぇ〜」


「俺がホストになる前だよなぁ」


「そうそう、遼もあの頃に比べたら出世したよね~」


「それを言うなって」


二人の様子を見ていて、ずっと頭の中で言葉が浮かんでいる。


(さあて~どっちを口止めするかなぁ)


「あゆみとアリス、別伝票でテーブル二つになるけど一緒に座っていいよ」


「やった~」


俺はフロントに向かう。


「主任、あそこの二つの席だけど、くっ付けて二人一緒に飲むって」


「大丈夫か?」


「さ~どうなんでしょ」


「お前も大変だな」


「もう、なるようになれって感じですね」


俺は、急いで頼もしいヘルプの所に向かう。


「隼人、あの二つの席だけど、うまくやってくれ」


「え~どうやるんですか?」


「ん~俺も初めての事だから、わからん」


「お互い喧嘩にならないですか?」


「それは、大丈夫。二人とも楽天家だから、細かい事は気にしないよ」


二人とも男の浮気は、平気だと言っている。

まして、ホストはそれが仕事だと。

口ではそう言ってても内心はどうか俺にはわからない。


(ま、いっか)


そういう二人の性格が、俺にとっては救いになっていく。


「さあ、ジャンジャン飲むよ~」


「フルーツも持ってきて~こっちもそっちも、二つ、よろしく~」


(あ~あ、困った二人だ)


俺は、他のグループからも応援を呼んで席に着いてもらう。


(この分だと二人とも口止めしたほうがいいかもなあ)


俺は、まず二人並んで座っているアリスの隣に座った時に耳元でそっと話す。


「アリス、俺が部屋に行っている事はあゆみに内緒な・・・」


「わかってるって」


「サンキューいい女房だ」


「ふふふ」


(これでひとまず、よしとして・・・)


今度は、アリスがトイレに行った時にあゆみに話す。


「あゆみ、アリスはいい客だから俺達の内々の事情は内緒な」


「当然でしょ。何も言わないよ」


「頼もしいな。さすが、できた女だよ」


「うまいこと言って。その代わり一つ貸しね」


「わかった。お礼に今日は俺がボトルおごるよ」


「マジで?」


「うん、いいよ。じゃ、頼むな」


「オッケー」


(こんなとこかな・・・二人とも素直でやりやすい)


隼人にそっと耳打ち。


「隼人」


「はい」


「俺のボトルケースに月末の売上の時、アリスがいれた新しいボトルが何本かあるのだけど・・・」


「わかりました。ボトル空いたら、あゆみさんの席にさも新規で入れた様に出せばいいんですね」


「あ・・・うん、そう。その通り」


(ほんと、こいつやばいくらい感がいい)


「じゃ頼む」


「はい」


(はぁ〜疲れるなぁ〜)

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