第128話 歌舞伎町ホストツアー客①

地方からホストクラブにくるおのぼりさん的な女性達がいる。


「いらっしゃいませ」


「きゃーホストだ~素敵〜」


間近の俺達に両手で手を振っている。


(なんだ、こいつら?)


「わたし達ホストクラブ初めてなの」


(なまっている・・・東北かな?)


なまりを指摘する事はしないようする。


「そうですか。じゃあ二人とも、たっぷり楽しんで帰ってもらわなきゃね」


「よろしくお願いしまーす」


二人でハモリながら答える。


「どこから来たの?」


「内緒」


「まあ、いいや。いつまで東京にいるの?」


「明日帰りま~す」


いちいち片手を上げて答える。


(元気な二人だな)


「そっか、じゃあ宿泊はホテルだね?」


「そう、高層ホテル」


(高層ホテルって・・・西新宿かな?)


「じゃあ一緒に帰って部屋でパ~っと盛り上がりますか~!」


「い~ね~素敵〜」


(軽いなあ)


「副都心かな?」


「そう」


「じゃあみんなで空を飛ぼう!」


「え~空飛べるの?」


「うん」


西新宿のホテルには、来る事が多い。

寮の住人達と女の宿泊先に遊びに行く。

西城が一緒だと王様ゲームが始まる。

相変わらず、ワンパターンの男。


ホテルに入ると都内の風景を見ながら・・・する、なんて事もある。

一面のガラスに女を張り付かせて・・・。

これは刺激があってお勧め。


「ほんと空を飛んでいるみたい」


「だろ」


「でもはずかしい。丸見えじゃない?」


「今は昼間で外が明るいから大丈夫だよ。夜なら反対に外から丸見えだけどね」


いつもここから、街を眺めると世界を制した気分になる。


(この女と街を制したぞ)


こんな、馬鹿な事を思いながら愛し合う。


「また来られるのは来年かな~」


「そっか。寂しいね」


「今度逢いに行こうか?」


「ほんと?」


「いつでも行くよ」


「うれしい」


「君の住んでいる町を見てみたいから絶対行く」


「楽しみ」


そう言ってもほとんど約束どおり行く事はない。

相手も社交辞令だと思っていてくれているので文句は言わない。


「遼さんそろそろ来る頃ですね」


隼人が聞いてくる。


「ん?誰が?」


「もうすぐ7月ですよ」


「あ~そうか、もうそんな時期か・・・」


「連絡は、しないんですか?」


「連絡先知らない」


「え~あんなに上客なのに?」


「それがいいんだよ」


「そんなものですかね~」


「遠からず近からずってやつだよ」


「不思議な関係ですね」


「本名も知らないし・・・」


「マジですか?」


「いつも姫、姫って言っているだろ?」


「ええ」


「あれ、七夕の織姫の姫。俺がつけた呼び名」


「え~店の源氏名かと思ってました」


「仕事も謎なんだよなあ」


「聞かないんですか?」


「うん、聞かない」


「ふ~ん・・・面白いな」


「そこが、また彼女にとっていいんじゃないかな」


七月に入り、一本の電話が店に入る。


「もしもし、遼ちゃん?お久しぶり」


「お~久しぶり~」


(この声は・・・っと、誰かなぁ?)


「明日行っていいかな?」


「明日?いいよ」


「明日買い物するからそれが終ったら行くね」


(おっと!姫だ)


「オッケー。そろそろ来る頃だろうって思って待っていたよ」


「またまた〜じゃあお店に行く前に、電話するからいつもの喫茶店で」


「オッケー」


電話を切ってヘルプの所に行く。


「隼人、明日、例の織り姫が来るから、明日一日すべてオフでよろしく」


「やっと来ましたね。で、他のお客さんはどうします?」


「全部断る。電話は受け付けないでいいから」


「了解です」


「休みって言っといて」


「休みって言うんですか?」


「そうすりゃみんな店に来ないだろ?」


「ばれますよ」


「その時はその時さ」


「明日は、姫が遼さんを貸し切りって事ですね」


「そういう事だね」


「わかりました」


次の日、俺は店から遠い喫茶店に向かう。

知り合いに見られない様に離れた喫茶店で会うには、訳がある。




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