第136話 半同棲女との血だらけ部屋④

白い壁や家具、絨毯などが血で真っ赤。

俺は、思わず叫ぶ。


「夏子!」


「・・・・・」


返事をしない。


(まさか・・・誰かに殺された?)


唖然として、その場で体が固まって動けない。


「ウウウ・・」


「ハッ・・・」


(声?)


俺は我に返る。

奥の部屋から人のうめき声がする。

俺は、急いで部屋に入る。

そこに夏子が倒れている。


「夏子!」


「・・・・」


「おい!どうしたんだ?」


「うう・・・」


「お前、夏子だよな?」


(うわ~、ひでえな)


目がうつろで、息はしていたが顔が血で赤く染まっている。

額の傷からは血が噴き出し骨が見え隠れしている。

顔面蒼白で死んだ人のようだ。

どう見ても、夏子とは別人のように見える。


(これ、やばくねえか?)


鼓動と同じリズムで、血が噴き出している。

それを見た瞬間、鼓動が激しくなる。

ずっと見ていて気分が悪くなってくる。

しかし、焦っていたのにすぐに冷静さを取り戻している自分がいる。


「まてよ・・・」


(何が起きたんだ?)


周りを見渡す。

テーブルや床に薬が散乱している。


「あ!」


あの預かっていた大量の安定剤。


「マジかよ!これ飲んだのか?」


酒のビンも転がっている。


「これ飲んでから、酒を飲んだんだな」


自殺ではなさそうだ。

俺は、夏子の傍に行って話しかける。


「なつこ!話せる?」


「あ~、う~」


「おい!目をあけろ!」


「・・・・」


「何錠飲んだ?」


「あぁ・・・・」


薬に目をやったがシートもバラバラ、中身の薬も散乱していてどれだけ飲んだか把握できない。


「だめだ・・・」


言葉もまともに話せない状態で、意識ももうろうとしている様子。


(まいったな)


「救急車呼ぶか・・・」


(まてよ、この部屋見たら俺がやったと思われる)


改めて部屋中を見渡す。


(絶対警察呼ばれるだろうな)


「う~ん、どうすっかなあ」


夏子は、目が見えないのか手探りで何かを探すような動きをしている。


(こいつ、何やっているんだ?)


「おい!夏子、何を探してるの?」


「ス・・・」


「ス?」


「・・・・」


「何だって?」


それ以上言葉が出てこない。


(なんだろう?)


俺は救急車を呼ぶ事をやめて近くの外科病院に連れて行く事にする。


「まず、この出血を止めないとだな」


「救急箱は置いてなかったよなあ」


俺は、夏子の化粧箱を見つける。


「おっと!これでいいか」


化粧用のコットンを使う。


「止血するぞ」


「まぶ・・・」


(お?またしゃべった)


夏子が話し出す。


「何?」


「まぶし・・・」


「まぶしいの?」


夏子がうなずく。


「わかった、さっきのスって・・・」


探しながら言ったのはリモコンで操作する電気のスイッチのスの事だった。

俺は、リモコンで明かりを消す。


「これでいいか?」


夏子は、うなずく。

傷口はコットンで押さえてセロハンテープで止める。

その後、急いで顔中の血をふき取る。

着ている物、下着も全て脱がせて体に付いた血を拭いてから服を着替えさせる。


夏子は、されるがままの状態。


「さて、夏子。病院にいくぞ」


まだ朦朧としている様子。

額をみるとコットンがみるみる赤く染まっていく。


「あちゃ~こりゃだめだ」


セロハンテープが血で剥がれてしまう。


「困ったな」



俺はもう一度、新しいコットンで抑えて、その上にタオルを巻き付け解けないように結ぶ。


「これで、いいや」


俺は、抱きかかえながら救急病院へ連れて行く。


(こんなに軽かったっけ?)


俺は、ふと頭によぎる。

病院が俺がやったと警察を呼ぶんじゃないかと・・・。

それが心配になってくる。

何故こんな事を?

部屋はどうする?

この後の二人の関係は?


病院に歩いて向かう道中、夏子の顔を見ながら色々な事を考えてしまう。



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