第143話 ホスト休業②

「さっきから落ち着かない人ね~どうしたの?」


美紀は不思議そうな顔で話しかけてくる。


「男はいないのかな?って」


(いたら俺を呼ばないだろうけど・・・)


「さっきからそれを気にしていたの?」


「うん」


「今は、いないよ。いたら部屋に入れるはずないでしょ」


「だよな。そうだ、犬飼ってるんだね」


(今は・・・か)


部屋の中で動いた物は犬だった。


美紀は、傍にいた犬を抱き上げ撫でながら言う。


「この犬が今の彼かな〜」


「じゃあ二匹目のペットに志願しま~す」


俺は、頭を撫でてもらおうと美紀に突き出す。


「相変わらず馬鹿ね」


美紀は、俺の頭を軽く叩く。


「なんか懐かしいな~こんな風に一緒にいるの何年ぶり?」


「5年?」


「もうそんなに経つのかあ」


(まさか、初めての同棲相手の部屋に戻るとはなぁ)


「月日は早いよね〜」


「ところで、仕事は相変わらずソープ?」


美紀は首を振る。


「ううん、今は休んでいるよ」


「身体、壊した?」


「そう、よくわかるね」


「だいたい、性病か腰痛とかで休むから・・・」


俺の言葉の後半トーンが小さくなる。


(しまった。言わなくてもいい事を・・・)


「あ~わかった。客からよく聞く話なんだね」


「そうそう」


「どおりで詳しいはずね」


美紀は、俺の顔を覗き込んで聞いてくる。


「ところで、なんで辞めたの?」


「辞めたのじゃなくて休業」


(やはり聞いてきたか)


俺は、美紀の顔から背けて座り直す。

美紀は俺の前にまわりこんでくる。


「じゃあなんで休んでいるの?」


「女がうるさくて・・・」


「また~何か、やらかしたんでしょ?」


美紀は、疑いの目で俺を見つめる。


「まあ深く聞くなって」


「私には、関係ない話だからいいけどね」


俺は、独り言のように呟く。


「少しは、気にしろよ・・・」


「どうせ教えないんでしょ?」


「はは・・まあね。気にするなよ」


「ほら~」


美紀は、俺の身体をつついた。

俺の身体が床に転がる。

そのまま肩肘をついて寝そべる。

そこに犬が俺の顔の前にきて、ぺろぺろと顔をなめる。


「うう・・・・なめすぎだろ」


「遼の事、気に入ったみたいね」


「これって、そうなの?」


美紀は。仕事に行く仕度をしている。


「ところで、今、仕事は何?」


「ホテトル」


「なんか、みんな同じ流れだなあ」


「みんな同じって?」


美紀は、下着姿のまま首を傾げながら聞いてくる。


「いや、何でもない」


「そこまで言ったなら言ってよ」


「ソープ休業の時にはホテトルで稼ぐって話」


(ついつい、一言多くしゃべってしまうな)


「ふ~ん」


「俺も何か繋ぎで、仕事をやらないとだな」


「仕事なんて、やる気あるの?」


美紀は、疑いのまなざしで俺を見る。


「あるさ~働かず者、食うべからずだよ」


「偉そうに~女の金で食ってきた男が言う言葉?」


「あははは、それを言うなって」


(痛い所を突付くな)


「認めるんだ」


「美紀も言うようになったな」


「だてに世間に、揉まれてませんよ」


「へい、へい」


ふと美紀を見ると何かを考えている様子。



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