第142話 ホスト休業①

その後、店を休み出勤しなくなってから女の家を転々とする。

仕事もしないで女に生活を見てもらって、ひものような生活。

何人の家を渡り歩いた事だろう。

幸い、みんな喜んで面倒を見てくれている。

事情を聞く女、聞かない女、様々だったが聞きたがる女には正直に話をする。

それを聞いて憤慨する女には、すぐに追い出される。

ほとんどの女は気にしないで面倒を見てくれる。


(こういうのって、人徳って言うのか?・・・言わないか)


相原に頼んでいた親の急病で実家にと言う嘘の話が無駄になってしまった。


店に出ている時は、部屋にも行かなかった女達が突然の訪問に戸惑いを感じている。

それでも喜んでくれている。

そう思う様にした。


(俺は都合のいい男だな)


客の部屋を7人くらいまわった頃、俺は馬鹿な事を考える。


(日曜から月曜日まで曜日によって違う女の部屋を泊まり歩くのも面白いな)


実現したら贅沢な話。

そんな事をしていたら、体がもたないだろう。


(毎日、女の相手してたら衰弱死だな・・・んな訳ないか!)


しかし、どの女の家にいても落ち着けない。

この先ずっと一緒にいてもいいと思う部屋が出てこない。

リラックス出来ない。


「何故だ?」


(住居のせい?それとも性格が原因?)


どこにいても居心地が悪い。


そして、一人、また一人と俺への気持ちが離れていくのがはっきり感じてくる。

ある時、一人の女にホストとしての俺が好きだったと言われる。


(男の俺ではなくホストに惚れていたんだな)


「情けないな」


そんな時、ふと一人の女を思い出す。


「そうだ!1人忘れてた」


「この電話番号、まだ繋がるのだろうか?」


夜の世界に足を踏み入れた時の女、美紀に連絡する事にする。


(繋がった)


「もしもし、俺、遼」


「わ~久しぶり、生きていたの?」


「僕は、もう既に死んでいる」


「あはは、その様子だと相変わらず元気そうね」


「実は、迷える子羊を救ってくれない?」


「迷っているって、どうかしたの?」


「実は、一月くらいフラフラと、さまよっているんだ」


「ふ~ん、店は?」


「休み」


「そっか・・・」


美紀は、それ以上は深く追求はしてこない。


「だめ?」


(考えてるな・・・男いるかな?)


「いいけど~うち狭いよ」


「いいよ、俺、玄関で寝るから」


「言ったね~じゃあ遼は、玄関ね」


「今から行くよ」


「場所わかるかなあ?中目黒の○○喫茶店の上だよ」


「何となく」


俺は、更に詳しく場所を聞いてタクシーに乗り家に向かう。

マンションの前に着き部屋の番号を押す。


(最近は、みんなオートロックだな)


「は~い」


「着いたよ」


「上がってきて」


ロビーに繋がるドアが開く。


「やっぱり上の階なんだな・・・」


(美紀も他の風俗嬢と同じか)


「いらっしゃ~い」


(おっスッピン)


「しばらく世話になるよ」


「うん、気にしないで、いつまでいてもいいよ」


「サンキュー」


俺は、部屋の奥を覗きこむ。


「しかし、身軽な男ね。荷物は?」


「これだけ」


俺は持っていた紙袋を持ち上げて見せる。

部屋に入ってから、辺りをキョロキョロ見渡す。


「さっきから何してるの?」


「いや別に・・・ん?」


俺は、部屋の中で動く気配を発見。


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