第44話 他派閥のNo.1ホスト①

真樹と俺や相原は、他のグループからもヘルプでよく借り出される。

人当たりが良く癖がないからヘルプとして使いやすいのかもしれない。

うちのグループの特徴が梶がいなくなって以来、裏表もなくきれいな商売に変化してきている。

癖も悪い客も少なく質が良い上客ばかり。

そのおかげなのか俺達のグループの人間は、色んなグループから安心できる存在として重宝されている。


俺と真樹の出来事は、外部には漏れていない。

知れていたら俺を使うホストは、いなかったと思う。


梶とよくナンバー1争いをしていた、橘というホストがいる。

橘は、梶が新人の頃に専属ヘルプとして仕事を一から教えたホスト。

梶がナンバー1になるまでは、橘がずっとナンバー1を維持していた。


俺と真樹は、ボトルを空ける要員として席によく呼ばれる。

さほど酒に強くない俺は、今では言われればいくらでも飲めるようになっていた。

毎日飲んでいると、徐々に酒に強くなってしまったようだ。

普段は飲まないでウーロン茶を水で薄めて、水割りのようにカモフラージュして飲んでいる。


ある日、ボトルを空けて売り上げを上げる為、席に呼ばれる。

梶には、いつも協力するなと言われていた。

しかし、ヘルプで呼ばれると断るわけにもいかない。


(梶さんがいなくなった今、俺達を引き抜くつもりなのだろうか?)


毎日、橘の席のヘルプの数が増えていく。

真樹と二人で席に向かう。


「あ~今日もお互いつぶれそうだな」


「何で自分のヘルプじゃなく俺達を呼ぶんだ?」


「ほんと、ほんと」


席に向かって座るとルイ十三世というボトルが並んでいる。


「今日は、おまえらにいい酒を飲ましてやるぞ」


「ありがとうございます」


(迷惑な話だけど)


橘は手を挙げて店に響き渡る声を張り上げる。


「メロンもってこ~い!」


「はい」


テーブルにメロンが1玉運ばれてくる。

橘は、メロンを半分に切って中身をくり抜く。

二つのメロンの中に、惜しげもなく酒をドボドボと入れる。


「さあ、飲め!うまいぞ」


俺達は一気に飲みそのまま、回し飲み。

ボトルが次々と空いていく。

飲みやすくてうまい美味いことは美味いのだが、ほとんどストレートなので一気に酔いがまわる。


その席の橘の客もつぶれ寝てしまう。


「橘さん、もう飲めないっすよ」


「なに~!!俺の酒が飲めないって言うのか?」


テーブルの下で蹴りが入る。


「うっ・・・飲みます」


(いてててて!酒癖悪いな~)


俺は一気に飲み干す。


「よ~~し。それでいい。飲め飲め!」


席に着いたホストもほとんど酔いつぶれてしまう。

営業時間が終了したにもかかわらず、橘は俺達を帰さない。


梶との思い出話ばかり話す。


(梶さんがいなくなって寂しいのかな?)


気がついた時には、席には俺と真樹だけ。


「あれ?真樹、他のやつらは?」


「みんなトイレ行ったきり、帰ってこないよ」


「逃げたな」


「多分な」


日本酒が運ばれてくる。

俺と真樹に一升ビンずつ持たされる。


「さぁさぁ一人一本な」


(マジ?)


「さあ、一気飲みだ」



「橘さん、もう勘弁してください。」


「おまいら、俺の酒が飲めれえのか?」


凄んで怒鳴る。

目が座っている。

言葉もろれつが回っていない。


「そんな風に言われても・・・」


「飲まなきゃどうなるかわかってんらろうな?」


「ええ~」


「飲んだら帰っていいぞ」


「無理ですって」


「飲むまでは帰さんろ」


真樹と顔を見合わせる。


「飲むしかなさそうだな」


「うん」


俺は、この後どうなってしまうのか不安に思いながらも三回くらいで飲み干す。

飲み終わった後、記憶が消える。

気付いた時、店の電話ボックスに座り込んでいた。

眠っていたようだ。


「おい、起きろ」


店長の声で目が覚める。


「店、もう閉めるぞ。早く帰れ!」


「あ・・はい」


(一体、今何時なんだ?)


その後の記憶も消える。


俺と真樹は、女を呼び連れて帰ってもらったようだ。

どうやって帰ったか全く覚えていない。



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