第43話 親友の客③

赤坂の後ろを歩きながら、俺は確信する。

こんなシチュエーションは今までなかった。

それに、元々彼女は赤坂の客の友人。

友達同士は話してしまうという心配があった。

そこからばれてしまうのではないかという不安はあったのだが・・・。


「お前、俺に話す事ないか?」


「・・・」


「おい!何とか言え」


「すみません」


「すみませんじゃ、わからないだろ?」


「真樹の客と寝てしまいました」


「そう、それだ。聞いたぞ」


「すみません」


「お前は、何をやっているんだ。仲間だろ?」


「はい」


「それもお前と真樹は、ただのホスト仲間じゃなくてプライベートでも友達だろ?」


「はい」


「どうするんだよ?真樹もどうしていいか、わからないんだぞ」


「はい。すみません」


俺は、はい、と、すみません、しか答えられない。

言い訳もしたかったが、何も言わず黙ってうつむく。


「う!」


思いっきり頭を殴られる。

その後、一時間近く説教を聞かされる。


「後は、当人同士で話し合え。」


「はい」


俺は真樹を話し合うために呼ぶ。

座って向き合う。

真樹の顔をまともに見る事ができない。

ホストになる前はナンパした女を共有したこともあった。

しかし今回は、以前とは事情が違う。


「真樹、ほんとごめん。こんな事で気が済まないだろうけど一発殴ってくれ。」


俺は目をつぶり歯を食いしばり顔を差し出す。

真樹は殴ろうとしない。

しばらく沈黙していた真樹が一言。


「もういいよ」


「いや、それじゃ俺の気がおさまらないし・・・」


「たっぷり赤坂さんに絞られたんだろ?」


「ああ」


「今回が最初で最後にしよう。」


「・・・・」


(真樹は、どうして許せるんだ?)


「俺は、女と寝て裏切られたことより、それを内緒にしていた事が悲しいよ。」


「・・・・」


(そういう事か)


「お前の事だ、自分からは、やってないはず」


「・・・」


「言い訳しないのはお前らしいけど、最初にお前の口から、その事実を聞きたかったんだ」


その真樹の言葉に俺の目から、勝手に涙が出てくる。


「ごめん」


真樹の目も涙で濡れている。


「あいつ、酔うと最悪だもんな。求め方が激しくて」


「真樹も大変だなって思ったよ」


「あはは」


お互い顔を見合わせて苦笑い。

それっきり、お互いに何事もなかったようの関係に戻る。

すごく心が楽になる。


「しかし・・・あの女には、頭にくるなあ」


(自分から内緒にしといてと言いながら、ばらすなんて・・・)


「はあ~女は怖い、恐い」


(それとも何か意図があったのか?赤坂さんの客に何故、話をしたのだろう?)


確実に赤坂に伝わるのがわかっていて、何故話をしたのか。

理由が知りたかい。

しかし、それっきり店に来なくなってしまう。

結局、真相はわからずじまい。

真樹の客を、一人なくしてしまって申し訳ないことをした。


その事があって以来、少しの期間、赤坂の席にヘルプとして呼ばれなかった。


「どうした?何かあった?」


「いや、別に」


(俺が悪いんだから仕方ない)


まわりも不思議そうに聞いてくるがごまかすしかない。

元々、梶の下の相原にヘルプとしているから、俺はどうでもよかったのかもしれない。

今は相原が赤坂を脅かす存在になっている。

だから相原専属ヘルプの俺がかわいく思えないのかもしれない。


しばらくすると元の様にヘルプで呼ばれるようになる。

グループ外のホストをヘルプで呼ぶより、俺のほうがまだ安心なのだろう。


罪滅ぼしというわけではないが、俺の客になったゆうこの友人を真樹に紹介することにする。


「真樹、今度ゆうこが友達連れてくるって言うからさ、紹介するよ」


「おっ、いいね~あいつの代わり?」


「もう~それを言うなって。忘れたい過去なんだし」


「あはは、すまん、すまん」


「ゆうこと同じ職場のソープ嬢だから、期待していいと思う」


「ありがたいね~あの事件以来、売り上げ落ちてるから・・・」


「またそれ言うのか・・・」


「あはは、わるい」


真樹に紹介する予定の女は、凄くいい女。

紹介するのが惜しいくらい俺のタイプ。

すごく悩んだ。


(友情もくそ食らえか?いや・・・約束は守らないと)


それよりも、ゆうこを失いたくなかったから我慢する事にする。


しかし、この女が真樹にとって命をおびやかす存在になる・・・。




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