第14話 ホストの仕事

そうこうしているうちに先輩ホスト達は、客と同伴出勤で店にやってくる。

俺と真樹は店の入り口に立ち客の出迎えをする。


「いらっしゃいませ~」


(そういえば初めて連れてきてもらった時も出迎えていたホスト達がいたな)


並んでいる面子を見ると、俺達と同じ新米ホストっぽい。

まさか俺達もここに立つことになるなんてあの時は思いもしなかった。


もう夜中の3時過ぎた頃、入ってくる客も少なくなり出迎えの必要もなく、店の中に入る。


あの時、紹介されたナンバー1ホストはまだ出勤してこない。

そのグループのホストの一人に声をかけられる。


「来たな。がんばれよ。」


「あ、相原さん!おはようございます。よろしくお願いします」


俺と真樹は挨拶をする。

並んで隣にいた男が話しかけてくる。


「おまえら、入ったばかりなのにどうしてあの人知ってるの?」


「あ〜それは、あの人の口添えで入ったんです」


「へえ~・・・」


その後、何か言いたそうな感じだったが、黙っている。

俺は知っている顔を見て、少しほっとする。

その後も、何をしていいか、わからず立っている。


内勤の主任に呼ばれる。


「二人、こっち来て」


「はい」


(なんだろ?)


キッチンの方に連れて行かれる。


「ここに洗い物がくるから、洗ってここに置いてくれる」


「はい」


(なんだ?これって・・・灰皿洗い?)


「後は出来上がった料理をテーブルまで運ぶ」


「はい」


(ホストなのに、ウェイターの仕事やらされるのか)


喫茶店のバイト時代を思い出す。

現実は、甘くない。


「少し慣れてきたら、かかってきた電話もホストに繋いでね」


(電話番もか・・・)


これが意外に、大変だ。

店に何台もある電話に、ひっきりなしにかかってくる。

いろんなホストにかかってくるのだが、名前と顔が一致しないから電話に出ても呼びにいけない。


内勤に教えてもらいながら呼びに行く。

そのおかげで早く全員のホストの名前と顔を覚える事ができた。


ダンスや音楽、大人の会話。

遠目で見ながら今日の営業が終わる。

テーブルの上のグラスや皿を厨房に運び店内の掃除をして長い一日が終わった。


「はぁ〜やっと終った」


「帰ろうぜ」


「お疲れ様でした。お先に失礼しま~す」


すごく緊張していたせいか、ぐったりと疲れた感じ。

俺と真樹は、早朝の歌舞伎町を歩いて帰る。


「まあ最初はこんなもんだよな」


真樹が言う。


「そうだな。俺達は客もいないし」


話をしながらツンとするゴミの匂い中、カラスとねずみのいる歌舞伎町を歩いて駅に向かう。

朝早い出勤のサラリーマン達に追い抜かれながら駅に向かって歩く。

そんな日が3,4日続く。


ずっと立ちっぱなしで足が痛い。

そして今日、店長からあるものを渡される。


「ほい、これ!」


「あっ!名刺ですか?」


サラリーマンもやった事もない二人が持つ、初めての名刺。

なんかうれしくなり、名刺をまじまじと眺めている。


「これを早く追加注文するようになれよ」


(ん?)


意味かわからず首をかしげていた。


「どんどん街や店の中で配ればいいって事だよ」


「はあ?」


「早く配りきって追加注文しろって事だよ」


「あ~~そう言う事ですね」


「そうやってどんどん名前を覚えてもらうんだよ」


「なるほど、頑張ります」


店には、休みがない。

毎日出勤。

年中無休だから、ホストに決まった休みがない。

各自、勝手に休みをとるのだ。

しかし、休むと給料がどんどん減ってしまう。


この店は、一日基本給二千円くらい。

売り上げのあるホストは売り上げの金額によって一日の日給の金額が変化するシステム。

後は指名料とヘルプ料。


売れているホストは、自由出勤で何時に出勤してもいいことになっている。

一分でも店に居れば出勤した事になり日給が発生する。


俺達はオープン前にきて、終わって片付けをしてから帰る事になる。

席に座り、酒を女性と飲んで給料がもらえるなんて・・・。

なんていい仕事なのだろうという思いは早々と砕け散る。


それでも真樹と俺は、くじけることなく毎日出勤を続ける。

一緒に入口に並んでいたホストもいつの間にか数人は姿が見えなくなっている。

一週間位した頃、一人のホストが俺達二人の所に近づいてくる。


「遼と真樹だっけ?」


「はい」


(誰だっけ?見た事あるけど)


「ちょっとこっちに来て」


「はい」


俺達は、そのホストに待機場所まで連れてこられる。


「座って」


「はい」


(何だろ?)


言われた通りに座ると男は俺達の前に座り話しかけてきた。


「俺は城って言うんだ。よろしく」


「はい」


(そうだ!アリスの席に座った人だった)


「二人は、アリスから紹介されて入ったんだよね?」


「ああ、はい」


「ホストクラブに詳しい?」


「いや、全くわからない事だらけです」


「じゃ少し説明するよ。今、全部覚えなくてもいいからね」


「はい」


(優しそうな先輩だ)


「ホストの営業は、グループいわゆる派閥でお客を接待する事が多いんだ」


「はい」


「あと、それ・・・遼かな?人の話聞く時は、足を組むな」


「あ!すみません」


(やばっ!優しくなかった)


組んでいた足を急いで下ろす。


「ヘルプで席に着いた時も偉そうに組むなよ」


「はい、わかりました」


「指名者に蹴り食らうぞ」


「はい」


(蹴りって・・マジ?)


「俺達のグループには№1と№2がいるんだよ」


俺達は、真剣な顔で話を聞き続ける。


「№1の梶と№2の赤坂、あと三条、相原、そして俺の五人のグループなんだ」


「はい」


「現状は、この五人だけでは、お客をうまく回せてない状態なんだ」


(まわす?)


「五人ともベスト10に入っていて、ヘルプもやり自分の客もこなすのは無理があってね」


「はあ」


「猫の手も借りたい状態だけど、他のグループのホストを席に付けるわけにはいかなくてね~」


「そうなんですか」


(わけがわかんねえや)


「そう。よほど信頼がおけないとヘルプとしてテーブルに付けられないんだよ」


「はい」


(何故付けられないんだろ?)


「ホストの中にも悪いのがいてね」


「はい」


「客に指名者のある事ない事を、吹き込むやつがいるんだよ」


「なるほど」


「それを、空気を入れるって言うんだけどね」


「空気ですか・・・」


「まあ、こんな事はどうでもいい事なんだけどね。実は・・・」


(何?)


「アリスからお前達の話を聞いて、連れてくるようにと頼んだのは俺なんだ」


「そうだったんですね」


「だから俺達のグループに入ってほしいんだけど、いいかな?」


「はい、是非!まだ何にもわからない事だらけですけど、よろしくお願いします」


(強引だけど・・・ま、いっか)


「オッケー、じゃ入るって事でいいよな?」


「はい、よろしくお願いします」


(ほんとに、訳わからない事だらけだなあ)


俺と真樹は、一緒に頭を下げる。


グループの中でも梶と赤坂の二つの派閥に分かれている。

梶に相原、赤坂に城が付いている。

三条は、どちらにも付かず中間の位置。


次の日、出勤すると主任がニヤニヤとした顔をしながら寄ってきて声をかけられる。


「今日から席にヘルプで座れるぞ」


「え?そうなんですか」


「話は聞いているからな。頑張れよ」


「今日からですか?やばい!」


急に緊張感が沸いてくる。


(心臓ドキドキだ)


いつものように灰皿や料理を運んでいると主任が側にくる。


「真樹、遼!ヘルプの仕事が入ったから、水割りセットを持ってテーブルに行って準備」


「はい」


「おまえら早くねえ?もうヘルプかよ」


他の新人達は、うらやましそうに言う。







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