第176話 何故逮捕?⑨
「なんじゃ、お前~なんか文句あんのか?」
「・・・・」
(難癖じゃん)
俺は、無視する。
「シカトしてんじゃねえよ。なんか言えよコラー」
その隣の男が一部始終見ていたらしく、男に向かって叫ぶ。
「うるせいな~この兄ちゃん何にもしてないだろ?」
「なんだとー」
「なんじゃ、やるんか?」
助け舟を出した男も黙っちゃいない。
殴り合いが始まる程の勢い。
「こらーそこ静かにしろ」
何人かの警察官が駆け寄り集まってくる。
「この男は別の部屋に連れて行け」
そう言われて問題の男は連れ出される。
「兄ちゃんいい迷惑だよな。弱い犬程吠えるんだよな」
「はぁ・・・」
「こら!そこ話すんじゃない」
警務官が近づいてくる。
「はい、はい」
男は手で追い払う仕草をしながら答える。
外に出れるのはうれしかったが、ここでの待機は辛い。
やっと俺の順番がまわってくる。
たった一人の刑務官が検事の部屋に連れて行く。
薄暗い廊下を歩いていくと、いくつもの扉が並んでいる。
(これ、みんな検事の部屋?)
長い廊下には俺と警察官の二人っきり。
(なんか無用心だなあ、逃げようと思えば逃げれそうな雰囲気じゃん)
歩く足音が廊下になり響く。
(凶悪犯とかだと警察官二人くらい付いてくるのか?)
「止まって」
一つのドアの前に来ると警察官がドアをノックする。
「入って~」
中から声がしてドアを開けられても立ち止まっていると背中を押されながら中に入る。
「そこに座って」
「はい」
座って検事の姿を見て驚く。
(こいつが検事?)
「今回、君の担当する検事です。よろしくね」
高そうなスーツを着て顔立ちもいい男、髪もロン毛で長い。
時計も高級時計をしている。
(まるでホストじゃん。ほんとに検事?)
書類に目を落とし、そのまま上目遣いで質問してくる。
質問の間、俺の受け答える様子をじっと観察している。
(顔はいいけど性格悪そうだな)
口調が嫌味な言い方ばかりで、目つきも悪く生理的に合わない感じの男。
検事の調べは疑い深く厳しく、警察署での刑事の方がやさしい人に思えてくる。
俺の今後の身柄は、説明を聞いていてこの検事次第だというのが検事の言葉でひしひしと感じてくる。
検事が刑務所行きだと裁判官へ回す書類に書けば、そのまま俺は刑務所送り。
「君の今後の人生は、僕の判断次第なんだよね~」
「はい」
(だからなんなんだよ・・・ほんとに嫌な言い方する野郎だ)
「もうこれ以上何もなさそうだから釈放にしてあげようかなぁ」
(おっ・・・やった)
検事は、机の書類に目をやりながらチラチラと上目使いで俺を観察している様子。
(俺の顔色を伺っているのか?)
俺もやっと出られるかと思い検事の言葉を期待してドキドキしながら待つ。
しばらく沈黙が続く。
「やっぱりや~めた。まだ何かありそうだからもう10日ほど通ってもらおうかな」
「え?」
(何言ってるんだ?なんだよそれ!冗談だろ?)
検事はいきなり書類の判をバンと押す。
「はい、次」
軽くあしらわれ追いやられる。
愕然とする。
(何これ?これで終わり?)
ドアの外に出てから警察官に聞く。
「俺、また留置所ですか?」
「検事さんがそういうなら、そういう事だね」
そのまま暗い静かな廊下を歩く。
(わけわかんねえよ)
帰りのバスに揺られながら、ボ~ッと外を眺めている。
まだ頭の中では検事の言葉が離れられない。
(また10日?長い。俺って出られるのだろうか・・・)
警察署に到着して留置場に連れて来られる。
「おかえり。まだしばらくいる事になったみたいだね」
「はい。しばらくお世話になります」
(もう伝わっているのか・・当然か)
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