第72話 同棲生活①

それから俺は、身一つで引越しをして由美との同棲生活が始まる。


「ようやく、家の中も落ち着いたわね~」


「今までこんな部屋に住んだことないよ」


ほんとに贅沢な住まい。

今まで、住まいに金をかける女はいなかった。


「そうなの?」


「それも最上階。眺め最高だね」


「それに、いい女でしょ?」


「う~~ん・・・」


「ちょっと~お世辞でもいいから「うん」って言いなさいよ!」


「うん・・・こ!」


「ばか」


家具など豪華に揃え、犬も飼い、今までにない贅沢な暮らしぶりだ。

起きると食事の仕度もしてあり、至れり尽せりの生活。


「え?何々?・・・ちょっと~それは、いいよ」


「どうして?」


「ソープで客に、そんな事をしているの?」


「まさか、ここまではしないわよ」


「なんか照れるというか、変な感じ」


「いいの。好きでしているのだから」


「俺は王様か!」


(靴下くらい自分で履かせろよって言いたいよ)


「今日のスーツには、これね」


「オッケー」


(靴も、か・・・)


玄関に、磨かれた靴がチョイスされて置いてある。


「なんかさ~これって亭主関白みたいだね」


「そう?」


「俺そういう性格じゃないんだけどなあ」


「気色悪い?」


「いや、悪くはないけど・・・」


「じゃあ、いいじゃない?」


「まあ、由美はセンスいいからいいけど」


(って、言うしかないよなあ)


「でしょ?」


嬉しそうに笑う。


「でも他のホストには言えないな」


スーツとネクタイも、出かける前にいくつかのパターンで並べてある。

それを俺が、選んで着て行くといった感じ。

初めは、俺もそんな生活が気分よく、有頂天になっていた。

しばらくしていくうちに、自分の意思がないような・・・。

自分が、あやつり人形のようになっていくような気分になる。

俺が俺でなく、自分自身を見失っていくような感じで不安になる。

由美は、そんなつもりはなく、親身に尽してくれているのだろう。


ベッドの上も主導権は由美。


由美の感じるように、由美の言葉通りに動く。

ソープで働いている時は、演技で感じたふりをしていると聞いていた。


(これもフリか?)


そう思いながら行為をしていると異常なほど感じている様子。

そのせいか、感じすぎて途中で失神する。


初めての経験。

自分がテクニシャンなのかと思わず勘違いしてしまうほど。

何の事はない、自分本意ではなく由美の指示通りに動いてるからだと後で気付く。

俺は、呼吸が止まって意識がないから、人工呼吸をしたりして慌てる。


由美は、いわゆる床上手。


男を喜ばせる技術は抜群に上手い。

一緒住んでいるにもかかわらず飽きもせず毎日してしまう。

そのおかげなのかどうかわからないが俺の技術があがる。


由美が指名が多いのもわかる様な気がする。

由美を抱きしめていて思った事がある。


(店で客としていて、本当に演技だけなんだろうか?)


タイプの男だって客の中にはいるだろう。

俺も店に来る客でタイプな女がいるのと同じように。


(これって嫉妬心?)


(だめだ、だめだめ。こんな事じゃホスト失格)


こんな事を考えないようにしようと、心の中の思いを振り払う。


最近、ふと思う事がある。


(こんなぬるま湯に浸かっていて、いいのか・・・)


売り上げも上がっているが、それもほとんど由美だけの売り上げ。


「他の客を呼ばないで。私が売り上げするからね」


「いいって。他にもお客さんいるし」


「他にもって・・・私も他の客と一緒で客って意味なの?」


「いや、そういう意味じゃないよ」


「他の女はいいでしょ」


時間があれば店に来るようになる。


(一緒に住むようになって独占欲が強くなったような・・・)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る