第156話 経営者の道⑤

俺は、普段通り何事もなかったように仲間の業者に電話する。


「もしもし、いつもお世話になってま~す。女の子1人お願いします」


「はい。どんな子がいいですか?」


「胸が大きくてかわいい系の女性をお願いします」


「はい、わかりました」


「ちょっと好みのうるさい感じのお客なんでよろしくです」


「間違いない子を行かせます」


「お願いします」


俺は受話器を置いてため息をつく。


「ふう~うまく行くかな?」


「大丈夫なの?横の繋がり大事にしないと・・・ばれたらどうするの?」


心配そうな顔であゆみが言う。


「そうだな~とりあえず今日は、この場をしのいで後から考えるよ」


後でそこの店から苦情がくる。


「店長、あの客やばいよ」


「何かありました?」


俺は、とぼけたふりをして聞く。


「行った女の子が、あの客は、やくざだって言っていたよ」


「そうでしたか・・・」


(うちのケツモチってばれてない?)


「全身刺青で、目の前でやばい事をしたんだってよ」


「えー!」


「女の子にもやろうとしたから逃げてきたって」


「すみません」


「もうあんな変な客は、まわさないでよ」


「お金は?」


「先にもらっていたからいいけど・・・何もサービスしないで逃げてきたから苦情くるかも」


「お客は、こちらで対処します。お金はバックしなくていいです」


「わかった。またいいお客さんをよろしくね」


「はい、今後もよろしくお願いします」


俺は、ゆっくり受話器を置く。

タバコに火を付ける。


「ふ~~」


(だめだな・・・)


「どしたの?」


心配そうにあゆみが聞いてくる。


「もう無理だな。あんなのがケツモチじゃ店を続けられないよ」


「そうね~こんな話、歌舞伎町では見た事も聞いた事もないよ」


「俺、明日親分さんとこに行ってくるよ」


「それがいいかも・・・」


「怖いな~怒るだろうな」


「事情しっかり説明すれば大丈夫よ」


「俺、殺されるかも・・・」


「まさか~上の人はそんなチンケじゃないよ」


「あいつがやばいかも」


「しっかりして!やくざがなんぼのもんじゃだよ」


あゆみは俺の背中を叩きながら言う。


「お前は強いな~」


(心強い女だ)


いつものエレベータで上の階に向かう。


「失礼します」


「どうした?」


「実は・・・」


俺は、今までのいきさつを詳しく説明をする。


「・・・・・」


親分は葉巻を吹かしながら、しばらく黙っている。


(なんか言ってくれよ~この空気、重すぎる)


親分は、長い沈黙の後ようやく口を開く。


「仕方ねえな~あいつの扱いには俺も困っていてなあ」


「そうですか・・・」


「しのぎ場所も悩んでお前の所にしたんだけどな」


「はあ・・・」


(何で俺のとこなんだよ)


「無理だったか」


「すみません」


「どうしょうもねえな~あいつは」


俺は、返す言葉もなく下を向いたまま。


「わかった。お前の好きなようにしろ」


「はい」


(好きなようにしろってどういう意味だ?)


俺は、部屋に戻って成り行きをあゆみの説明する。


「親分は許してくれたって事だよ。大丈夫、大丈夫」


その日に店を閉める。


あゆみと二人で部屋の片づけをする。


「これからって時に悪いな」


「いいよ~元に戻っただけだからね」


笑いながら答える。


「明るいな~お前を見ていると、どんなに辛くても元気になりそうだ」


「これから、遼はどうするの?」


「どうするかなあ」


「うちでしばらくのんびりすれば?」


「そうだな~そうするかな」


(もしかしてヒモ生活?)


俺は歌舞伎町に戻る事になる。

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