第155話 経営者の道④

それから男は、予定外の金を要求してくるようになる。


「ちょっと正月には早いけど、花代持って来い」


「花代って・・・」


「いいから、ここまで持って来いよ」


「・・・・」


金は大きな行事の時の付き合い程度の約束だったはず。

それが、毎月何かと理由をつけて請求してくる。

あゆみが心配そう顔をして見ている。


「あゆみ、歌舞伎町もこんな感じ?」


「あり得ない!こんなケツモチいないよ」


「店を食いものにしているな、あの男」


「最低なやつね。組長さんは、知っているの?」


「いや多分知らないはず」


「何で?」


「金、要求した後、必ずオヤジには言うなよって言うから」


「いいじゃない。言っちゃいなよ」


「ダメダメ。言ったらどうなるかわかるよなって最初の時に言ってた」


「たんなる脅しだって・・組長さんには頭上がらないはずよ」


「店で暴れるぞって言ってからなぁ」


「大丈夫よ」


「危ないよ。いつも目がうつろだし。マジであの男はやるよ」


「そうかなあ~ビビリすぎよ」


「お前は、蚊帳の中だからいいよなあ」


酒を飲みに行くからと連れまわされる日もある。

むげに断るわけにもいかず、三回に一回くらいは付き合っている。


しかし、俺の我慢の限界に達する事件が起きる。

あゆみから連絡がくる。


「遼、女の子の待機所にあの男が乗り込んで来たって」


「マジ?・・・それで?」


「待機している女の子の名前を一人一人聞いてから外に出て行ったみたいよ」


「なんだろう?」


「なんかフラフラ酔ってるみたいで目も焦点あってなかったみたいよ。やばいね」


「もう帰ったんだよな?俺、部屋に行かなくて大丈夫?」


「多分」


「鍵かけるように言ってくれ」


「わかった」


「ドアは、覗き穴から見て誰だか確認してから開ける様にしてって」


「うん」


「あいつが戻ってきても、絶対入れるなって伝えといて」


「了解」


チラシを配ってから事務所に戻る。


「大変だったなあ、あれからは何事もない?」


「何もないよ」


「そっか、一体何の用事だったんやら・・・」


その時、電話がなる。


「はい、お電話ありがとうございます。」


「あ・・・はい、少々お待ちください」


あゆみは受話器を手で押さえ俺に目配せしながら口を動かす。


「あいつよ。遼に代われって」


(何なんだって言うんだよ)


「もしもし、代わりました」


「おう、俺だ。えっ~と、瞳って言ったかな?あいつをホテルによこしてくれ」


「え~無理ですよ」


「いいからよこせ!」


「・・・ちょっと待ってください」


(まいったな)


「あゆみ、待機所に電話して瞳ちゃん行けるかどうか聞いてみて」


「遼、だめだって。こんな話聞いた事ないよ」


「そうか?そうだよな」


「自分の面倒見てる店の女を呼ぶケツモチなんていないよ」


「そっか」


俺は、受話器を押さえ持ったまましばらく考える。


(一度は口説こうとした女をあんな男の所に行かせようとした俺はもっと最低な男だな)


「あんな男の所に遼は店の子を行かせるつもりなの?」


あゆみはかなり怒った形相。


「ごめん、まずいよな」


「女の子も絶対行きたくないはずだよ」


「だよな、待機所には電話しなくていいや」


(こんなケツモチでは仕事をやり続けることが出来そうもないな)


俺は、待たせている男に告げる。


「すみません、明日昼の仕事で早く起きるみたいなので帰りました」


「ふざけんな」


「他のもっといい女の子行かせますから」


「何だって~嘘つくな」


「ほんとですって・・・別の子絶対気にいりますから」


「・・・・・」


しばらく考えている様子。


「わかった。よこせ!変な女だったら承知しないからな」


「はい」


その場しのぎで他店にまわし、そこの店の女に行ってもらう事にする。


(俺は最低な業者だな)




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