第139話 半同棲女との血だらけ部屋⑦

「姉は私が見ますから、もうここに来ないでください」


「妹さん、なんか誤解してない?」


「・・・・」


「俺は・・・」


「とにかく、姉とはもう会わないで下さい」


「おい!夏子、どうすればいいんだ?」


「・・・・」


「夏子!」


夏子は、窓の外を見たままでこちらを向かない。


(もしかして、夏子自信も俺に暴力でやられたと思ってるのか?)


「ちょっと、妹さん外に出ようよ」


「何ですか?」


「いや、ちょっとだけでいいから」


俺はドアを開けて外で待つ。

渋々妹が外に出てくる。

夏子を置いて二人で病室から離れたロビーに向かう。

俺は、妹に最初から事情を説明する。

全く信用してない様子。


「あなたの話は、よくわかりました」


「俺は、本当に何もしてないからね」


「そんな事は、どうでもいいですから」


「どでもいいって?・・・」


「とにかく、もう姉とは会わないでください」


「信じてないでしょ?俺が出かけている仕事中に起きた事なんだよ」


「もう帰ってください」


俺は、妹に両手で軽く突き飛ばされる。


(何だよ?・・・なんか腹が立つなあ)


俺は着替えを置いて病院をあとにする。

足取りも重くゆっくりと歩いて家に向かう。

部屋に着くと疲れが一気に押し寄せる。

部屋の中は、掃除の時の中性洗剤の臭いがする。


「まだ臭いな」


窓を開けて換気。

リビングでソファーに座り、腕組をしながら考える。

灰皿にタバコの吸殻が二、三本になった頃


「この部屋は、どうすっかなあ」


病院での様子を思い出す。


「あの妹がいたら話にならなさそうだし・・・」


店の事や、金の事、二人の先の事など色々考える。


(仕方ない・・・夏子とはもう終わりにしよう」


俺は、立ち上がり台所に行き紙袋を出す。

タンスや押入れを開け、手際よく自分の荷物をまとめる。


「家財道具は、このまま全部夏子にくれてやるとするか」


書置きを残す事にする。


「よ~し名文でも書くか」


(これでよしと)


夏子へ


もうここには戻らないから、部屋も好きにしてくれ


「あはは、簡単、名文じゃないな」


書いた紙をテーブルの上に置きペンを紙の傍に投げ捨てる。

ペンがテーブルから転がり落ちる。

几帳面な俺は、拾い上げようとしてやめる。


(もう、俺の部屋でもないからいいや)


自分の荷物を整理し、捨てるものはゴミ袋に入れていく。

そして、大量に積み上げたごみ袋に目が向ける。


「あ~あ、凄いな」


(これくらい捨ててから去るとするかな)


ゴミ捨て場に運ぶ。


「血のついた絨毯が重い」


(大丈夫かな?これ見て誰か通報しないだろうか?)


全部を捨てた後、ごみ置き場が一杯になる。


「この量があの部屋から物がなくなったら・・・」


部屋に戻って見渡しても物の量がさほど変わらない。


「不思議だなあ」


それから自分の荷物を運ぶ。

両手に紙袋を抱えて玄関を出る。


「重い・・・手がパンパンになりそう」


二回ほど往復してから今度はスーツを運ぶ。


「よいしょっと」


何着も抱えてながらドアを足で押し開ける。


「夜逃げだな。こんな姿、客に見られなきゃいいけど・・・」


そして、すべての荷物を運び終わる。

最後に家を出る前に、部屋中を見渡す。


「忘れ物はないかな?」


(いい思い出作れなかったな)


鍵を閉めてポストから鍵を家の中にほうりこむ。


「これでこの家には、もう入れない」


「あ・・・鍵はポストにあるよって書くの忘れてた」


「気がつくかな」


(まっいっか!)


俺は、寮に戻る。

ドアを開けると、最後の荷物を運んだ時にはなかった靴がある。


(あれ?誰かいる?)




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