第146話 転職②
俺は小走りでその男に追いつく。
並んだところで話しかけてくる。
「これって、一応違法行為なのって知っていた?」
「いや・・・」
(そうなんだ)
「警察に捕まる事もあるよ」
「マジですか?」
「こういう業界は、裏に暴力団がいて売り上げが資金源に流れるって思われているからね」
「なるほど」
「実際はそんな店ばかりじゃないけどね」
「ふ~ん」
「ま、そういう店も多いけど、君の所はそんなの付いていないはずだよ」
「知らなかったけど、裏にいないって事はいい事なんですよね?」
「そうでもないよ。トラぶった時は、ああいう人達いると話が早いから・・・」
(なるほど・・・水商売と同じだな)
歩いていた彼が急に立ち止まる。
「さあ、やるか」
「あ、はい」
体の中で少し緊張が走る。
彼の動きを見る。
一瞬で外に出てくる。
(はやい!)
「さあやってみな」
「はい」
電話ボックスに入ってビラを貼ってみる。
「遅い~もっと早くさっさとやる!」
敏速に貼らないといけないので大変だ。
慣れるまで時間がかかる気がする。
「さあ、次行くよ」
彼の身のこなしが機敏に感じる。
走って追いかける。
「これは、一日一回ですか?」
「違うよ。また一時間後に同じところに貼りに来るよ」
「また?」
「お客が、剥がして持って帰る場合もあるけど、ほとんどが誰かに剥がされる」
「そうなんですか・・・」
「この辺は、新宿と違って電話ボックス少ないから広範囲で貼らなきゃいけないんだよ」
「へ~」
「電車で移動もするよ」
「電車?」
「そう、駅もいい客が拾えるんだよねえ」
「そうなんですか」
駅に行くとトイレに向かう。
「ここが最高にいいんだよ」
「こんな所、大丈夫ですか?」
「ここは、掃除の人にすぐ剥がされるけどね、イタチごっこさ」
「なるほど」
「根気だよ根気!」
「そっか」
「どこにお客が転がっているかわからないからね~」
「わかりました」
(この人、何か楽しそう〜)
しばらく一緒に付いてまわる。
この男の仕事は少々悪質なビラ貼り行為に感じてくる。
かなり強引にありとあらゆる所に貼っている。
最初、俺は警戒しながらの作業。
毎日やっていると、不思議と慣れてくる。
ボックスで電話している人がいてもお構いなく中に入っていって貼る。
だんだんと大胆になってくる。
「電話中すいませ~ん。ちょっと貼らせてね」
「なんだよ電話中に・・・」
「ごめんね~これが仕事だから!」
無茶苦茶なやり方だ。
一仕事終えたら、事務所に戻って一休み。
「ただいま~」
「おかえり~」
自分の家に帰って来たみたいで変な感じだった。
店には、電話番と女の子とみんな同じ部屋で待機している。
美紀も夜中になると店にやって来る。
電話を受けて女達は、タクシーや歩きでホテルに向かう。
「お電話ありがとうございます。女の子ですか?」
「はい」
「二時間25000円になります。場所はどちらでしょうか?」
「○○ホテル」
「そこなら歩いて行けますので交通費込みで2万5千円ですね」
「よろしくお願いします」
「どんな女の子がお好みですか?」
「若い子が・・・」
「では、20分以内に着くので待っていて下さい」
「はい」
「何号室ですか?」
「○○○号室です」
「わかりました」
こんな感じで受け答えしてすぐに女の子を出発させている。
(あのビラでちゃんと電話かかってくるんだなぁ)
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