第138話 半同棲女との血だらけ部屋⑥

「もしかして・・・」


(人の持ち物とか、手帳とかチェックしていたのだろうか?)


「夏子って、こんなに嫉妬深かったっけ」


今まで先輩の女だった時から思い返しても、そんな記憶は浮かんでこない。


薬はシートから殆ど出されている。


「もったいねえなあ~」


(これ全部飲むつもりだったのだろうか?)


「まさかなあ」


どのくらい飲んだのかは、これだけで判断出来そうもない。


「酒を飲んでから薬を飲んだのなら、すぐに腰が抜けて歩けてないだろうし」


部屋のあらゆる場所を見てまわる。


「ここが一番血のりが多かった場所だ」


(あれ?)


「もしかして、ここの家具の角におでこをぶつけたのか?」


(それで、ぱっくりと額が割れたのかな)


血が固まってて瞼が開けられない夏子を思い出す。


「出血で血が目に入ったんだな」


(それで目が見えなくなったという事か)


「そして、倒れないように壁伝いに歩き回った」


そうだとすると壁に引きずった血の跡の謎が解ける。

そして、床の引きずられた様な血の跡は電話をかけようとここまで這いつくばって来た痕跡。

電話を掛けてそのまま気を失ったと推測。


「まっ、こんなとこかな?」


「我ながら、いい推測じゃん」


「でも・・・」


(これって、やっぱり俺のせいになるのか?)


「しかし、俺が来るのが遅かったら・・・」


そう思うと背筋がぞっとした。

もし死んでいたら、真っ先に疑われるのは俺。


次の日、俺は着替えを持って病院に行く。


「こんにちは・・・」


俺は、ドアをそっと開ける。

夏子の顔が見える。


「おはよ~夏子」


元気よく声をかける。

部屋の中に入ると一人の女性が付き添っている。


(あれ?・・・誰だ?)


付き添いの女性にチラッと目をやるが、すぐに夏子を見る。

夏子の頭には、包帯が巻かれている。


(痛々しいな)


「夏子・・・大丈夫か?」


「うん」


「着替え持ってきたよ」


「ありがと」


「えっと・・・」


俺は改めて付き添っている女性を見る。


「妹よ」


「妹さん?・・・はじめまして」


「・・・・」


返事もなく無視。

俺に対して、あきらかに憎悪の目で睨み付けてくる。


(こわ・・・何でそんな怒った顔?)


俺は、重苦しい空気の中、夏子に話しかける。


「どう?」


「どうって?」


夏子の声が少しかすれている。

俺は、妹を方を見ないようにして、夏子に向かって話を続ける。


「意識は、はっきりしているの?」


「う~ん、まだ頭がぼ~っとしている感じ」


「そっか・・・出血多かったもんなあ」


「そうなの?」


「覚えてないのか?」


「うん、全く記憶ない・・・」


まだ妹の視線を強く感じる。


「そっか、家具に頭をぶつけていた感じだったよ」


「そうだったかも・・・」


「あれだけ飲めば仕方ないさ」


隣で妹は黙って俺達の会話を聞いている。

俺は、途中から妹にも説明しているつもりで話す事にする。


「飲んでから、どこまで覚えているんだ?」


「そうね・・・」


「あの~すみません」


妹が二人の会話に割り込んで話しかけてくる。


「ん?何?」


(お~声が同じじゃん・・・さすが姉妹)


「すみません。もう帰ってもらえないですか?」


「え?」


「あなたがここにいたら、迷惑なんです」


「え?だって・・・」


(何なんだ?)






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