第180話 何故逮捕13

「もう身体の彫る場所がなくて、ここに自分で彫ったんだけど、どうだ?」


「・・・・」


(どうだって言われても・・・)


足の付け根には、ドラえもんが見事に彫られている。

しかもうまい。


「うまいっすね~」


「そうだろ?子供がこれ見て喜ぶんだよ」


(あ・・・また泣くんじゃ?)


目が潤んでくる。

男は鼻をすすり、泣くのを思いとどまる。


「そうだ、お前彫り師にならないか?」


「え?」


「興味あるんだろ?紹介してやるよ」


「はあ・・」


「俺でも出来るから、そこで修行すればいい」


「いいですね」


(ここは、口を合わせておくかな・・・)


「とりあえず外に出たら俺のうちに電話しろ」


「はい」


住所と番号を言われたが、そう簡単に覚えられるものでもない。

彼の住所を聞いた時に聞き覚えのある地名。


「あれ?そこって・・・」


(う~ん、確か・・・)


「何だ?」


「そうだ」


店にいた女を思い出す。


「ここの住所聞いたことある。近くに○○ってスポーツクラブありません?」


「ああ、ある」


「ここのクラブの水泳教室で知っている子が先生やっています」


「女?」


「はい」


「お前のいた店の子?」


「そうです」


「俺の子供がそこ通っているぞ」


「へ~偶然ですね?」


「まさか、うちの子が習っている先生だったりして・・・名前は?」


「いや本名は聞いてないから・・・でも店名はひとみかな」


「え?ひとみ先生か?」


「同じ名前の人いました?」


(ひとみって本名だったのか?)


「胸のでかい?」


「そうです。あと声が・・・」


「ハスキーな」


「そうです」


「マジか?あのかわいい先生がホテトル嬢?」


「・・・・」


(やばかったか?)


「う~~ん」


目をつぶって考えこんでしまう。


(まずいな~まだ働いていたら彼女に迷惑かかる)


「まあこの話は、別として出たら連絡しろ」


「はい」


ここを出て、職がなかったら本当に彫り師になっていたかもしれない。

もし、紙とペンが自由に使えたなら・・。

結局、連絡先は暗記できなかった。


そして、相変わらず毎日規則正しい生活が続く。

俺は、毎日昼食に出前を頼む。


「この分だと太るな~運動不足だし・・・」


俺の独り言に答えて隣から男が話しかけてくる。


「週に一回運動できるぞ」


「え?そうなんですか?」


「タバコも吸わせてもらえるぞ」


「へ~」


何日か後、房ごとに空の見える囲われた場所に連れていかれる。


「あ~気持ちいいなあ」


背伸びをしたり屈伸したりして狭い中だが歩き回れる。


「タバコ吸うやつは、吸っていいぞ」


そういって看守がタバコを差し出す。

風呂も週一に近いペースで入る。


「あ~~気持ちいい~~」


「おい、時間ないぞ。しっかり洗っとかないと、またしばらく入れないからな」


「は~い」


同じ部屋の男はお尻の穴近辺まで彫り物がはいっている。


(あそこ彫る時は痛いだろうな~聞きたいけど聞けない)


その後、ニ、三日するとまた頭の痒みに襲われる。


「うううう痒い~~」


頭をかくと雪のようにフケが落ちてくる。


「すげ~な~」


実は、俺にはこの生活が耐えられる理由がある。


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