第181話 何故逮捕?14
もし捕まった時は、オーナーの名前を出さなければまとまった金がもらえる。
そういう約束で雇われ店長を引き受けた経緯があった。
それだけを支えに辛くても耐えている。
(後、10日・・・10日我慢すれば・・・)
そして、あの嫌味な検事の顔を何日も見ている。
ところが10日を待たず1週間たった17日目。
いつもの取り調べが終る。
(あ~今日も一日終ったあ)
俺が立ち上がって帰ろうとした時、検事に呼び止められる。
「ちょっと待って」
「はい?」
俺は、振り返り検事の顔を見る。
「もういいや」
「はあ?」
「もういいだろう」
そう言って書類を裁判官へとまわす手配をしている。
「え?」
(これで終わり?こんな簡単に終わるの?)
あっけないものだ。
今迄、たいした取調べもなく時間稼ぎのような感じで過ごした。
結局、俺は売春あっせんの罪で5万の罰金刑ですむ。
これが刑務所に何年も入る事と決まったらと思うとぞっとする。
(はあ~とりあえず、よかった!)
身支度を終えて留置場から出る。
一回の出口に下りると見慣れた顔が。
「お?」
あゆみが迎えにきていた。
「今日出られるのよくわかったな」
「だって、いつ出られるかもわからないから、毎日電話していたんだよ」
「そっか」
「警察署に来ていたんだけど会わせてもらえないし・・・」
「ずっと接見禁止だったからな」
警察も検事の判断次第なので、俺の今後はわからなかったらしい。
あゆみが毎日来ていた事は、知らなかった。
「いや~檻から外に出て、シャバの空気はうまいって聞くがほんとだな」
「私には、同じに空気に感じるけど・・・」
「いや・・・ほんとにうまいよ」
空気というより自由になったことが、空気を美味しく感じさせているのかもしれない。
「で・・どうだったの?」
「なんとかオーナーの名前は言わずに隠し通せたよ」
「そう、じゃ少しもらえるの?」
あゆみは隠した理由をとっさにわかったようだ。
当然の報酬だと思って話してくる。
「多分な」
「それ相当分もらわないと割り合わないね」
「そうだなあ、その金で温泉でもいくか!」
「やったあ、いこいこ」
「それとも海外にいくか?」
「あんまり大きな期待するとよくないんじゃない?」
「いや、あの自由のない苦しみを耐えたからそれなりの金額を期待しようぜ」
しかし、あゆみの心配は的中する。
期待は、もろくも崩れ去る。
オーナーの組事務所に電話する。
「あいつバックレたよ」
「え?」
「うちも探しているんだがよお、行方不明だ」
「えーー!!」
「警察に捕まるのを恐れて逃げてしまったらしくてな」
「マジですか?」
「そういう事だ」
そう言って電話を切られる。
その事をあゆみに話す。
「それって怪しいね」
「怪しい?」
「組が逃げた組員の居所わからないなんて、有り得ないし・・・」
「そうか?」
「金払うの惜しくなったんじゃない?」
「マジ?」
「かといって、本当か嘘か組の人に追及することもできないしね」
「あ~~俺の苦労が・・・」
結局そのまま泣き寝入りのようになってしまう。
俺の耐えしのいだ20日近くは無駄になってしまい落ち込む。
「まあまあ、いいじゃないの。いい経験したって事で」
「・・・」
「お金は入らなかったけど、のんびり温泉旅行に行きましょ」
「金は?」
「わたしも、遼が入っている間、稼いでいたから金の心配をしなくていいよ」
「お前はいいやつだな」
「ばっかね、遼らしくないよ」
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