第85話 ホストに導いた女②
店が終わり隼人だけ連れて三人で焼き肉店に向かう事にする。
外に出るとアリスが待っていた。
「もう、レディを寒空に待たせないでよ」
「ごめんごめん。他のみんな誘ってたんだけど、お客がいて忙しくて無理だって。隼人だけでかんべんな」
本当は、隼人以外誰も誘っていないがアリスアバウトな性格なら信じてくれるだろう。
隼人にも口裏は合わせてある。
(西城なんて誘ったら最悪だもんな)
「いいよ。隼人君かわいいし・・・ねえ~~隼人」
アリスは、隼人に腕を組んで歩き出す。
「アリスさんにそんな事を言ってもらい、こんな事までしてくれて僕は幸せだなぁ」
「おいおい、ちょっと〜」
(こいつ~俺さえ腕組んだことないのに)
「俺、もう死んでもイイッス」
(相変わらず、調子いいやつだ)
他のホストなら腹も立つ所だが、隼人なら許せる。
いつもならアフターの後、女からの誘いを断る為にヘルプを連れていく。
今日は違う。
一緒にアリスと一緒に帰る作戦。
それまでの間を持たす為に連れてきた。
俺は、アリスにガツガツしている男に見られたくない。
流れに沿ってさりげなく誘いたかった。
隼人は、俺の考え通りに動いてもらうにはうってつけの男。
「かんぱ~い」
「さあ食おう~」
俺達は、テーブル一杯に並んだ肉を焼いて食べる。
(さあ、どうすれば上手くいくだろう)
俺は、食べながらその事ばかり考えていたので会話も上の空。
肉も食べた気がしない。
食べながら誘う事も出来ずに食事が終りに近づく。
(やばい、俺、女も誘えない奥手の男の様になってる)
「一緒に帰ろっか」
隣に座っているアリスの方から俺の耳元で小さく囁く。
「え?」
アリスからの突然の誘いの言葉に動揺。
「聞こえなかった?一緒に帰ろ。」
「ん・・・うん」
この言葉に反応して、ときめいてしまった自分が恥ずかしい。
(この感じ・・・久しぶりだな)
アリスに、あれこれ根回しをする必要もなかったようだ。
隼人は、そんなやり取りも気付いているのかいないのか夢中で食べている。
食後のデザートも食べ終わる。
「いや~食べましたね」
「ほんと食った食った」
「もうお腹一杯だぁ、ごちそうさまでした」
「もう、終わりでいいのか?」
「はい。俺、この後、客と約束しているので帰りますね」
「え?」
「いいですか?遼さん」
「あ・・ああ、いいよ」
(変だな。そんな事言ってなかったのに・・・さっきの会話聞こえたか?)
「じゃあ、アリスさんご馳走さまでした。またお願いします」
「いいわよ」
「じゃあ、俺、行きますね」
(遼さん、よかったっすね。がんばって)
隼人は、帰り際にそっと言葉を言い残して走り去る。
(あいつ、ほんとにいい仕事する様になったな)
「隼人ちゃん、お客さん待たせていたの?誘って悪かったかな」
「多分違うよ、気をきかせてそう言ったんだと思う」
「へえ~、いいヘルプじゃん」
「ああいう奴なのさ」
「大事にしなくちゃね」
「そうだね」
「じゃあ、行く?」
「あ・・うん」
アリスの言葉に反応して鼓動が早くなった様な気がする。
区役所通りを歩いて部屋に向かう。
いつも見慣れている道が違って見える。
収集を待つごみ袋ばかりの歩道が、俺には花道に見える。
それくらい舞い上がっている。
「ねえ、腕組んでいい?」
「ああ、いいよ。さっき隼人にやっていて妬けたよ」
アリスはぶら下がる様に腕組み、頬を腕にすり寄せて歩く。
「またあ、嘘ばっかり!でもこうしていたら恋人同士に見えるかな?」
「さあ~どうだろうね」
(見える見える)
「だけど、お客さんに見られたら大変よ、大丈夫?」
「そんなこと、気にしなくていいよ」
「ふ~ん、じゃあ、もっとしがみついちゃおっと!」
アリスは、俺の腕に胸を押し付けて更に強くしがみつく。
(おっとと)
「なんか・・・あの頃にこうなるとは想像しなかったなあ」
「そうね、遼は、まだホストじゃなかったもんね」
「そう言えば、アリスってホストじゃない男とは付き合わないのかな?」
「さあ~どうなのかしらねえ~」
「俺がホストにならなかったら、こうはなってないって事か?」
(ホストである俺がいいのか?・・・ゆうこと一緒か?)
俺の頭の中にゆうこの顔がよぎる。
「どうだっていいじゃない」
アリスの笑顔で思い浮かべたゆうこの顔も一瞬で消え去る。
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