第88話 ホストに導いた女⑤

アリスには、心に思った事も包み隠さず正直に話せる。

自分を全てさらけ出せてアリスに恋する俺の気持ちがアリスの周りにまとわりついている恐怖を打ち消している。


アリスはホスト遊びがベテランの域に達している。

ホストにとって都合の良い女。

アリスが店に飲みに来る。

いつものように赤坂と俺の相指名。

赤坂と俺の三人で座っている時にアリスが突然赤坂に、話しかける。


「ねえ赤ちゃん、遼との相指名なんだけどさぁ、遼一本にしてくれない?」


俺は、飲んでいるドリンクを吹き出しそうになる。


「おい、何を突然言うんだよ。すみません赤坂さん」


赤坂に向かって一礼する。


「いいよ、お前達、どうせいい仲なんだろ?」


「いや・・・あの・・・」


(バレバレだったか?)


「相指名で二人指名だと売り上げの半分が赤ちゃんにいくから面白くないんだもん」


「ちょっとアリス~やめろよ」


(やば〜)


「いいじゃないの~ほんとの事だもん」


「俺は、他にもお客いるから売上なんて気にしなくて平気だって」


「それは、赤ちゃんも同じでしょ?」


「アリス失礼だよ」


「私が身体張って稼いだお金を遼の売り上げ一本にしたいのよねぇ、ねっ!いいよね?」


「ああ」


「赤ちゃんお客一杯だし、私の売り上げなんかなくてもナンバー1とれるでしょ?」


「だからいいって!」


「サンキューお父さん。じゃ次から一本指名でよろしくね」


「お前、お父さんって・・・」


「だってお父さんと同じくらいの年なのよ、赤ちゃんは」


「お前には負けるよ」


「すみません、赤坂さん」


赤坂は、無言で立って他の席に行ってしまう。


「やばいよ~。絶対に俺は後で怒られる」


「平気よ。昔から怒っても次の日まで持ち越さない人だから」


「怒られる俺の身にもなってよ~全く」


「大丈夫だって」


「それに気になっていたんだけど、赤ちゃんって呼び方変じゃない?」


「ん?なんで?昔からの呼び方よ」


「なんか赤ん坊みたいで変だよ」


「赤坂だから赤ちゃんで変なの?」


「赤坂さんはそう呼ばれたくないんじゃないかなあ」


「そうかな~あたしは前からそう呼んでたし普通なんだけど・・・」


(そうだ!・・・この呼び方してたの梶さんだった。もう言いのはやめとくか)


赤坂の席に着いた時、笑顔から険しい顔に変わる。


(やばい)


「遼、裏で付き合ってるのはいいけど、その分しっかり教育しろ」


「いや、別に付き合ってるわけでは・・・」


「ごまかさなくていいから」


「すみません」


「あんな事、店の中で言わせるな」


「はい」


「俺が恥かくだろ」


「すみません」


「まあいい。こんな事はこれっきりにしろ」


「はい」


(はあ~やっぱり怒られた。アリスめ~)


いつもアリスが店に来ている時、居心地がよくて席に長居してしまう。

他の席に自分の客がいても、アリスの席に入り浸っている。


「ちょっと、遼、ここにばかり座ってないで仕事してきな」


「うん、もう少ししたら行くよ」


「何甘えているの。仕事、仕事!こんな所で休憩しない!」


「わかったよ」


「早く客の席にいって“愛しているよ”の言葉でも言ってさぁ、稼いできなよ」


「し~、他の客に聞こえるだろ」


「いいわよ、聞こえたって」


前の席にいる隼人が笑っている。


「二人の会話、聞いていて飽きないですね」


「茶化すんじゃないよ。ほら!アリスの酒がなくなってるぞ」


「あ、はい」


「じゃあ、ここ頼むな」


「はい」


俺の行動をよく思ってないホストもいるが、グループ内でも後押しするホストもいる。

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