第87話 ホストに導いた女④

アリスは黙りこくりジッと見つめ続ける。

しばらくしてようやく口を開く


「私の事、好きなの?」


「何だよ、急に」


「ふと、思った」


「そうだな~正直言うと、かなり前からだね」


アリスは大きな目を更に大きく見開きこたえる。


「へ~そうなの?知らなかった。いつ頃から?」


「出会った頃、一目惚れさ」


(ちょっとおおげさか?まあ嘘じゃないからいっか!)


「あらほんと?うれしい!」


「ずっと片思いって事だね」


「全然わかんなかった」


「あの頃は、高嶺の花だったもんな」


「あはは、そんな大げさな女じゃないわよ」


アリスは手を叩き大きな口を開け笑っている。


「自分で言うなって」


「だけど遼も言うようになったわね、あの頃は新人でウブだったのにね」


「それを言うな」


「あはは」


「ところで、入れ墨はいつ頃いれたの?」


「わたし十代の頃、暴走族の頭やっていてさあ」


「ああ~わかる」


「何よ、わかるって」


「今でも通用しそうだから」


「失礼ね」


「あはは、ごめん」


「その頃に入れたの。本当は全身に入れたかったんだけど・・・」


「だけど?」


(何だろ?)


「親に猛反対されてね」


「そりゃあ、普通反対するでしょう、って言うか親に入れ墨の話したの?」


「親の知り合いに入れてもらおうとしたからね」


「ふ~ん」


(親の知り合いが彫師?)


「親が恐くてここしか出来なくて」


「アリスでも親が恐いんだ」


「うちは特に厳しくて」


話しているうちに矛盾を感じる。


(家が厳しいのに暴走族なんてよくやってられたなあ)


「腕にも根性焼きの後がたくさんあるね」


アリスは、慌てて腕を隠す。


「あ・・・気付いていた?」


「そりゃ~、痛々しいからね」


「若気の至りね」


「あはは、それも若気かよ。まだ今も若いのによく言うよ」


「もう、あんな無茶は出来ない年になったわよ」


「根性見せる為?それとも辛い事でもあったの?」


「そうね・・・」


「俺も族やっていたけど自分を傷つけるとかはしなかったよ」


(根性見せじゃなさそうだ)


「へ~遼ちゃんも、族やっていたの?」


「関西のヤンキー。若気の至りさ」


「類は類を呼ぶってやつね」


「ははは、そうだね」


(類は友だろ・・・)


「若い頃って無茶するわよね」


「そうだな~それがかっこいいって思ってたし」


「後輩が見ていると歯止めがきかないのよ」


「若い時しか出来ない事ってあるしな」


「親に迷惑かけちゃうけどね」


「親大変だっただろ?」


「うん・・・」


アリスの顔から笑顔が消える。


「どうした?」


「実は私のパパ、組の親分なの」


「へ~」


(マジかよ)


俺は平静を装って答える。


「だから小さい時から家にいるのが嫌で、ほとんど家出状態だったんだ」


「ふ~ん」


正直、その話を聞かされてちょっと引いた。

今まで俺の身辺で悪いことばかり起きていたから、いよいよ今度は俺の命が・・・なんて。


「パパは、アリスの仕事知っているの?」


「多分ね」


「多分って・・・」


「もう何年もパパとは話してないんだ、ママとはたまに電話で話すよ」


「自分で仕事の事、言ったの?」


「言ってないけど、店の紹介記事に顔出しで載せてるからね」


「あらら、それはまずいね」


「ママが言ってた。パパが激怒して勘当だって騒いでいたって」


「だろうな」


「若い衆が雑誌で見つけてパパに報告したみたい」


「うん」


「バカな若い衆、その場でぶっ飛ばされたって」


「へ~馬鹿だなぁ」


(こわ~)


「俺、殺されたりして・・・」


「あはは、ありえなあ~い、もう縁切られているから」


「だって、・・・」


梶の事を言いかけたが、やめる。

もう昔の事だ。思い出させたくなかった。

でも、今まで周りの人間が何人も消えていっているから、正直怖い。








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