第190話 運命の出会い①

いつものように店に行くと、いつもの顔ぶれの中にひときわ輝いて見える女がいる。

俺にはそう見えた。

この店では、場違いと言ってもいい様な女。


(誰?こんな子いたの?新人?)


上品なお嬢様風でアイドル顔の可愛い女。

名前はマイ。

直視するのも躊躇いチラチラと見る。


(何故この仕事で稼がなくちゃならないのかな?)


俺は不思議に思う。


「おはよ」


声も幼い子供のような甲高い声。


「おはよう」


思いっきり笑顔で聞いてくる。


「あなた、新しい人?」


「いや、そうでもないけど」


「ふ~ん、あ、そっか、私が久しぶりに事務所の中まで来たから会ってないだけね」


向こうのほうから、ママが話かけてくる。


「遼ちゃんは、マイちゃんに会うの初めてね」


「はい」


「マイは、自分の車でお客さんの家に移動しているの」


「そうなんすか」


「客もほとんど指名の客ばかりだから自分で行けるのよ」


「そっか俺達は必要なしだ」


(特別扱いな女って事か・・・)


「今日は指名がないから、フリーのお客さん待ちなの」


「そっか」


「今日、タイミングよくマイに付けるお客はラッキーね」


「ふ~ん」


(そんなにいいのか?テクニシャン?)


俺は、変な想像をする。


「マイも初めての場所は、運転手が連れて行ってあげないとわからないからね」


「なるほど」


「それと、マイは彼氏いるから遼は手を出しちゃだめよ」


「え?」


(何だ?急にそんな事・・・)


「ダメよ」


「何で俺にそんな事をいきなり言うんですかあ・・・大丈夫ですよ」


(まさか元ホストやってたのばれてるとかかな?)


「遼ちゃん、マイちゃんが可愛いから好きになっても無理だよ~」


横から他の女達が俺をからかう。


「バカ言うなって」


「相手なんかされないから」


「はいはい」


(全く、本人前で言うなよなあ)


俺は横目でマイを見る。

マイは下を向いて笑っている。


(かわいい・・・)


送迎する男は、女の子を送るだけでなく客とラブルった場合に家まで乗り込む。

この前のウンチマンのように、トラブルを解決しなくてはならない。


来た女が気に入らないと怒り出す客もいる。

女の子が裸で家を飛び出して、車に逃げ込んできた事もある。

コトを終えて料金を払わない客、複数の男が部屋で隠れている場合もある。

送った場所が、やくざの事務所だったなんて時もある。

さすがに組の事務所に入って行く時は恐かった。


何事もないのが一番いいが、女の子達が客の部屋に入って30分間は緊張の時間。


店に出勤してきて仕事に出かけない女達は、事務所で雑談している。

俺達も同じ部屋で待機しているが、マイが事務所にいる事は、ほとんどないに等しい。


ある日、ママが電話で応対する声が聞こえてくる。


「マイですか?はい、今日は出ていますよ。はいわかりました。じゃ向かわせます」


(マイに指名みたいだな)


それから、ママはどこかに電話をしている。


「じゃお願いね」


どうやらマイの家に連絡して客の場所を指示している様子。


マイには、客から今日は出勤するのかどうかの問い合わせが毎日2,3件ある。

マイから出勤の連絡が入ると、その日はすぐに予約で埋まってしまう。


(マイほ、俺なんかとプライベートな話なんてしないんだろうな)


俺は、マイに対して妙な感情を抱きだしている。

自分で何となく一線を引いている。

段々と高嶺の花のような存在になっていく。


そんなある日、女を近くのホテルに送った後、事務所へ連絡を入れると


「送った子の迎えはいいから、戻ってきてマイを客の所まで送ってくれ」


「は・・はい」


(マジ?)


俺は、ドキドキして喉が渇くほどの緊張感に襲われる。


(客の家に着くまでの間、何を話していいのだろう?)


いろんなことが頭の中で飛び交っている。

ハッと気付く。


「たかが女一人に、俺は一体どうしたんだ?」


今まで色んな女の相手をしてきた俺。

今までいくらでもいい女、かわいい女、たくさんいたはずなのに・・・


(しばらくホストの仕事から離れているせいか?)


事務所に戻って車で待機していると、近づいてくるマイの姿が見える。


(来た!)


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