第129話 歌舞伎町ホストツアー客②
喫茶店の外から窓際の姫を見つける。
(いたいた!)
中に入ると彼女はこちらを見て笑う。
「久しぶり~愛しの織姫さん」
「その呼び方は、やめてって言っているでしょ」
「だって一年に一回、それもこの時期しか来ないなんて、まさしく七夕の織姫じゃん」
「はずかしいよ」
「じゃ名前教える?」
「・・・・」
「だろ?姫でいいじゃん」
(しかし、何で教えないんだろ。意味わかんねえ)
「はい、これ」
「まいど」
「これで今年もお願いね」
「了解」
毎年彼女は、先に100万を俺に渡す。
彼女が帰るまで、全ての支払いを俺がする。
このやり取りを見られない為に離れた所で待ち合わせする事になった。
売り上げの少ない時は、客を呼んで月末に高いボトルを入れて金を使わせる。
彼女が来るのはいつも月初めなので、そういう金の使わせ方は必要ない。
いつもランチに、ホテルのルームサービスを頼む。
俺は、メニューのほとんど全部を頼む。
テーブルに乗り切らないので、ベッドの上にも並べる。
並べたところで彼女を起こす。
「おはよ」
「また〜?こんなに頼んで食べきれないでしょ」
「いいから、いいから。この眺めは何回見ても気持ちいいだろ?」
「遼ちゃんにあげたお金だから何に使ってもいいけど・・・」
「二人でいる時くらいは贅沢しょう」
「うん」
「食べ終わったら、時間だね」
「そうね」
「今回は、姫と一緒に帰ろうかなあ」
「え?」
彼女は、困惑した表情。
「あはは、冗談だよ。そんな顔するなよ」
(この顔は嬉しくてか、来て欲しくないからなのか・・どっちだ?)
「はあ~びっくりした」
「明日もお客くるからね。本当は行きたいところだけど」
「その気持ちだけ受け取っておくわ」
「じゃ先にロビーで待っているから、支度が終ったら降りてきな」
「うん」
俺は、先に部屋を出てフロントに行きチェックアウト。
支払いを終えて財布の中を見る。
(またこんなに余った・・・)
俺は、ロビーの横に並んだジュエリーショップを見つける。
(そうだ!いい事を思いついたぞ)
「どれがいいかな」
(急がないと降りてくる)
「すみません、これをください」
離れた所にいる店員を呼ぶ。
「はい」
「包まないで、そのままでいいです」
彼女が支度をして降りてくる。
ソファから立ち上がり彼女の荷物を持つ。
「タクシーまたしてあるよ」
「ありがと」
「ちょっと後ろ向いて」
「何?」
「いいから」
荷物を下ろして、俺はさっき買ったネックレスをポケットから出して付ける。
「はい、前向いて」
俺は、彼女の身体をくるっと回す。
髪を整えてネックレスのトップを体の真ん中に。
「うん、似合う似合う。今回のお礼ね」
「うれしい~ありがとう」
本当にうれしそうな顔をする。
俺は、その顔を見て少し罪悪感を感じている。
(俺の金で買ったんじゃないからなあ)
彼女もわかっているだろう。
「じゃあ、気をつけて」
「うん」
「また来年・・・だね?」
「あはは、そうね」
「今度は、マジで俺がそっちに行こうか?」
「そのうちね」
毎回逢いに行くと言うが行く事はない。
会いに行ったら二人の関係が終ると感じている。
彼女には、きっと守りたいものがあるだろう。
「運転手さんこれで上野駅まで。お釣りはいらないから」
「え?ありがとうございます。こんなに、いいんですか?」
「そのかわり、事故のないように安全運転でお願いします」
俺は、彼女の乗ったタクシーを両手で手を振りながら、見えなくなるまでいつまでも見送る。
(いつまでこの関係が続くんだろう)
「さてと、今年の七夕も終了〜帰るとするか」
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