第194話 運命の出会い⑤

マイは、俺のプライベートな事を聞いてこない。

いつも超ポジティブな俺が、俺に興味がないからなんだとマイナス思考。

考えたら当然の事なのに何故か悲しく思えてくる。


「さて、そろそろ時間だから行ってきな」


「あれ~もうそんな時間?」


「そそ、お客が待っているよ」


「うん、ちゃっちゃとすまして帰ってくるね」


「ちゃっちゃって・・・」


「ここは、私が持つからのんびりコーヒーでも飲んで待っていてね」


「え?いいよ、俺が払うよ」


俺の言葉も聞かずに店を出て小走りで客のマンションに入って行く。


「なんだよ。あんなに急いで走って行かなくても・・・」


(早く会いたい客なんだろか?)


ここのところ仕事に来ていて、毎日マイの事が気になっている。

マイが出勤しているのかどうかは車に乗っているとわからない。

会えるのは運次第のような毎日。


事務所で待機している時、やっとチャンスが、巡ってくる。


「また今日もマイの指名客から催促の電話・・・」


ママが困った顔で言う。


(どうしたのかな?気になるな・・・)


俺は、さりげなく聞いてみる。


「マイ、どうかしたんですか?」


「マイちゃん、最近車が故障で仕事に来られなくって」


「ふ~ん」


「指名のお客さんから毎日電話は入るし困ってるの」


「そうなんですか」


「本人は来たいらしいんだけどねえ」


社長がママに言う。


「何とか電車でも使って来いって電話しろよ」


「だって、どうやって夜中に家まで帰るの?タクシーじゃもったいないし・・・」


「家までの送迎をするから、来てくれって頼んでみろよ」


「わかった、聞いてみる」


マイの家までは車で1時間近くかかる。


「電話したら、送迎してくれるのだったらすぐ行くって」


「そうか。わかった」


俺は、二人の会話を隣でずっと聞いている。


(これは、チャ~ンス)


社長は誰に行かせようかと考えている様子。


(社長・・・俺、俺。俺が行く)


心で願うしかない。


自分から志願するとマイへの気持ちが、ばれそうな気がして言うに言えない。

誰もそんな事を思うはずはないのだが。


結局別の男が迎えに行く事になる。


その日の俺は、別の女の子を乗せたまま送迎をしている。

突然店から呼び出しの連絡が入る。


「今の女の子と店に戻ってきたらマイの送迎を頼む」


「え?俺がですか?」


「そう」


「お客の所にですか?」


「いや、もうマイは、あがりだから家まで送って行ってやってくれ」


「はい、わかりました」


(お~やった、久しぶりに会える)


「お前にって、マイの指名だってよ」


社長が最後にそう言って電話を切る。


(マジ?でも・・・なんで俺?)


俺は、車のアクセルを踏み込む力が、強くなる。

別にマイと何かがあるわけでもない。

客の所に送るだけの関係なのに妙にはしゃいでいる。


いろんな妄想を勝手に想像。


送っていったら部屋にあがってお茶でも・・なんて。


そしてそのままベッドへ・・・。


(有り得ないか・・・)


自分の都合のいいほうにばかり想像している。


(俺・・・あほだな)


事務所に戻るとマイが待っている。


(いた!)


胸がドキドキしている。


(なんだ?この感覚・・・久しぶり)


「お待たせ」


「うん」


「ごめんね、送ってってくれる?」


「あ、いいよ」


(俺を指名ってほんとうだろうか?理由が知りたい)


2人で車に乗る。


「なんか疲れていそうだね」


「うん」


「・・・・」


(聞けないな・・・)


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