第118話 ホテトル嬢①

相原の客の友人で、小さくて童顔で、まるで子供と間違ってしまう様な女がいる。

ホテトル嬢の、ちさと。


店に来る客を相手に商売している風俗嬢と違い、ホテトル嬢は肝が据わっている子が多い。

気が強くないと出来ない仕事かもしれない。

続けているうちに自然に気が強くなる子もいるだろう。

そうなると、客と衝突も増えていく。


ホテルで女が殺害されるという事件があると、被害者がホテトル嬢だったという話をよく聞く。

どんな男が待っているかわからないし、初めて会う男と密室で二人きりという状況。

もし俺が女だったら、怖くて部屋に入れないだろう。

そんな仕事をしているとは想像も出来ない女と出会う。


「ちいは、彼氏なんていらないの」


自分の事を名前で呼んでいる。

声も小さな子供のような声。

一緒に飲んでいても、子供と飲んでいるような錯覚に陥る。


「ちいちゃん、そろそろ指名者決めたら?」


「いいの、ちいは、このままでいいの」


(かわいい・・・)


俺は仕事抜きで、ちさとに惹かれてしまいそう。

何回か店に来て、いつも口説いているのだが中々落ちてくれない。

俺は、まだちさとの職業を知らない。


ある日、京介がニヤついた顔で近づいてくる。


「遼、ちいって女、ホテトルだって」


「へ~あの幼な顔で?」


(マジか・・・)


「そうらしいぞ」


「見えないなあ~びっくり」


風俗だろうと薄々感じではいたが、事実がわかって更に戸惑いを感じる。


「他のホストクラブにも出入りしているらしいよ」


「あらら」


「みんな義理指名で男っていう男は、いないらしい」


「そうですか」


少しホッとする。


「男になびかない女みたいだって」


「ふ~ん。なんか、それを聞いてさらに気合が入りますね」


「いろんな店のホストが口説いても落ちないらしいよ」


「そっか」


「そうそう、他店のホスト達は、妹のように可愛がっているってさ」


「あ~それなんかわかる気がします。そうしたくなるような女ですよね」


ちさとは、相変わらず今日も店にいる。


(最近うちにばかり来るって事は、誰かお気に入りなのかな?俺だったりして?)


俺は、自分に都合のいいように思っている。


「ちいちゃん、ダンスは?」


「ちい、下手だから踊らないの」


「そっか」


「じゃ、今いくつなの?」


「今更?内緒。じゃあ反対に、いくつに見える?」


「10歳」


「あはは、それじゃ捕まっちゃうね」


「どう見ても10歳くらいに見えるよ。目をつぶったらさらに・・・だな」


「声?これは、子供の時から変わってないんだ」


「かわいい声だね」


「よく言われる。アニメ声って」


「そうだね。声優になれるんじゃない?」


「そう?なろうかな」


「で、いくつなのかな?」


「歳なんてどうでもいいじゃん」


「・・・そうだね」


俺は、しつこく聞くのをやめる事にする。


「それより遼ちゃん、今度の日曜日、暇?」


「日曜日?昼間?」


「そう」


「大丈夫だよ」


(お~どうした?いよいよ口説けたのか?)


「じゃあデートしようよ」


「それってお誘い?いいよ」


(マジかよ)


「遊園地に一緒に行ってくれない?」


「遊園地?オッケー、行こう、行こう」


「実は、もう1人いるんだけど一緒にいいかな?」


「もう1人?」


「うん。妹も一緒に」


「三人でって行くって事?」


「そう」


「俺も妹の相手として、もう1人連れて行こうか?」


「妹は、小さいから三人で行こうよ」


「わかった」


(三人じゃなあ・・・まいっか)






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