第8話 ナンパ生活
美紀と別れてから、同じバイト仲間でいつも行動を共にする一樹という男がいる。
毎日二人で歌舞伎町をふらふらと歩きながらナンパをしている。
「一樹、今日も行くか!」
「そうだな、昨日は不作だったから今日は期待したいね」
一樹はイケメンには、ほど遠く決していい男とは言えなかったが、話術が巧みな男。
俺は、この時期に多くのナンパテクニックを磨く。
歌舞伎町は、関東近辺、他色々な地域から人が集まってくる。
女がいろんな土地から仕事や遊び目的で来ている。
終電がなくなった歩いている深夜の女は、比較的軽いノリの子が多くナンパの成功率は高い。
「遼、今日は夕方から行こうぜ」
「うん、夕方からはお互い一人でナンパして、会う約束の時間を決めるとしよう。遼は奇数時間な」
「オッケー、俺は23時、1時、3時って事ね。深夜は、いつものように連携プレイで楽しもう」
お互いに色んな性格の女の出会いを楽しんでいる。
「彼女お茶しない?」
「いやや~これナンパってゆうの?」
(関西弁?)
俺は、すかさず関西弁で言い直す。
「ほな、お茶やのうてレイコー(アイスコーヒー)せいへん?」
「あれ、あんた関西人?」
こんな下手な関西弁でも歩く足を引き留めればすぐに打ち解けて、この後の展開が上手くいく。
俺達は、店に入っても本当にお茶だけ頼む。
「こぶ茶お願いします」
「え?本当にお茶なの?」
「そうだよ。だって俺、お茶しない?って言ったからね」
「あはは、確かにそうだけど・・・面白い人ね」
こんな簡単な冗談で相手は心を許していく。
ナンパは、ためらっていてはいけない。
数打ちゃ当たる。
何度も無視されたりひどい言葉を返されて腹が立つ事があってもへこたれない。
一日、百人声かけるなんてざらだった。
それ程新宿には女が集まってくる。
「あなた、いつもここにいるよね?もう三回目よ。声かけた相手覚えてないの?」
「3度目の正直っていうでしょ?だから今度こそはと思って声かけたんだ」
(覚えてるわけないじゃん)
こんな咄嗟の切り返しで上手くゲット出来る事もある。
ナンパするにも金がかかる。
この頃は、まだ携帯が普及していない。
街角で声をかけて連絡先を聞くのに、メモを持ちながら道路上で書くのは業者みたいだし中々聞き出すのも難しい。
喫茶店などでお茶をして会話を長引かせ興味を持たさないと女は気を許さない。
一日に何人もの相手とお茶をするので帰りは水腹で歩くたびにポチャポチャと音がする。
彼女達の、ドリンク代も出す事になるから出費はかさむ。
この毎日のナンパで磨いたテクニックが後々役に立つ事になるとはこの時は考えもしなかった。
一人で声をかけるよりも、二人で連係プレイのほうが成功率は上がる。
「ねえ彼女達、これからこいつ一樹って言うんだけど、失恋を一緒に慰めてあげてくれないかな?」
「エ~なんで私たちが一緒にやらなきゃいけないの?」
「それは、君達が素敵な女性達だから!」
「は?馬鹿じゃない!意味わかんない。そんな言葉で女がホイホイ着いていくと思ってるの?」
「そんな事言わないでよー。こいつがさ、君達みたいないい女と一緒だと前の彼女絶対忘れられるって言うからさ」
「どうか俺を助けると思ってお願いします!」
そう言うと一樹は周りの目も気にせず土下座をする。
(おいおい!やり過ぎだろ!)
「ちょっとやめてよ〜恥ずかしいじゃない!もう〜仕方ないわね!」
その言葉が言い終わる前に一樹は立ち上がってガッツポーズをしながら笑顔で喜ぶ。
「こいつには勝てないなぁ)
女は本心じゃないと思っていても、ベタ褒めされると嬉しいものだ。
とにかく、身に着けている物でも何でもいいからほめまくる。
終電のなくなった一人歩きの女は、かなりの確率で成功する。
ナンパした後も関係が続くのは、一人の女に声を掛けた時が一番確率が高い。
歩いている女を、どんな方法でもいいけら立ち止ませられる事ができたら半分成功だ。
(後はいかに笑わせるか・・・つかみなんだよなぁ)
「恋人がほしいけど、今は一人の女に束縛されるのも嫌だしなぁ」
「俺は、ほしい」
「一樹は彼女がいない歴が長いからだろ?」
「うん、一緒に住みたいね」
「住むのも良し悪しだぞ。俺はしばらくいいかなぁ」
俺達は、恋人としてではなく友達以上恋人未満程度に留めておき、その数を増やしていく。
もちろん肉体関係は必須だがドップリとのめり込むことはしない。
これが後々の財産になっていく。
一ヶ月も経つと、蓄えた金も減っていき心細くなってくる。
そう思っていた頃、やっと店が新しくオープンする事になる。
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