第84話 ホストに導いた女①

懐かしい女がやって来る。

俺達二人を、ホストに導いたアリス。

もう一人の男、真樹はもういない。


アリスは、一度ならず二度も惚れた女。

相変わらず、かわいい。

そして、人目を引く派手さは相変わらずだ。


リストを見ると俺の指名を入れてくれている。

赤坂にも義理なのか指名が入っている。


「遼、久しぶり~」


「アリス~寂しかったよ~」


俺は、手を広げて抱きしめようと待ち構えたがアリスは抱きついてこない。


「ほら」


近づいて来ない。


「何だよ」


(ハグしてくれないのかよ)


「何、見えすいた事を言っているのよ。寂しいなんてこれぽっちも思ってないくせに」


「俺をホストにしたんだから責任もって最後まで面倒見て欲しいもんだよなぁ」


「よく言うわね、勝手にいなくなったくせに」


「あっ・・・そうでした。修行の旅に出ていたんだよねぇ」


「どうせ女と旅に出てたんでしょ」


「あははは」


笑ってごますしかない。


「少しは、女たぶらかして儲けているの?」


「まあまあかな~って、おい!ちょっと、たぶらかしてってなんだよ」


「あはは!ホストは騙してなんぼ!だよ」


「はいはい、相変わらず無茶苦茶言うな」


「でも、遼も話せるようになったね」


「そうでもないって。ところで、今までどうしていたの?」


「あれ以来、歌舞伎町には、居たくなくてさぁ」


「そうだよな」


(好きな男の死は辛いよな)


「浅草で遊んでいたの」


「そっか。じゃあ店は、吉原?」


「そうね。近いからね」


職場がソープと決め付けて聞く俺も俺だと思う。

予想通り答えるアリスもアリスだが、普通の勤め先で働けない女でもある。

会話も弾んでいたが、お互い梶の話題は出さない。


「住まいは、相変わらずホテル住まい?」


「そうよん」


「今は?」


「区役所通りのホテル」


「そっか」


新宿でホテル住まいの風俗嬢は、三ヶ所くらいに別れている。

派閥的なものもあったり店によってホテルの場所が違う。

駅前のステーション、区役所通りのホテル、ラブホテルの長期滞在など。


アリスは、歌舞伎町の店に変わったので吉原から新宿に戻ってくる。

俺は、由美の一件以来、心のよりどころがなかった。

久しぶりにアリスの顔を見て癒しを求めたい気持ちが湧き上がる。


(アリス、終ったら俺と飯食いにいかない?)


この言葉を発するのに何度もためらい、言えない。

客相手なら、何のためらいもなく言えるんだろう・・・。

身体を満たしてもらえる相手は求めればいる。

でも心を満たしてもらえる相手は、中々見つからない。

俺の中では、客だからダメって言うわけではない。

仕事抜きで感情を出せる様になった相手は、最初は客でも恋人の様に好きになれる。


だが今の俺には、いない。


アリスは、ホストの前から感情を抱いていた相手。

下心見え見えだと思われても言葉に出して誘う事にする。


「ご飯でも食べに行こうか」


「焼き肉?」


「うん」


「いいよ。なんか久しぶりね。みんなでパ~っと行こうよ」


「オッケー」


(あ!二人で行こうって言わなきゃだめじゃん)


「お腹空いたね」


「だな」


(みんなでか・・・仕方ない、誰を誘うかな?)


気が利いて頭の回転のいい隼人を連れて行く事にする。

隼人を見かけ手招きすると近づいてくる。


「隼人、肉食いに行くから付き合ってくれ」


(こういう時、隼人が一番いいんだよなぁ)


「いいですよ。腹減っていたんだあ」


隼人はお腹をさすりながら答える。


「お前、指名は入ってなかったっけ?客、アフター大丈夫?」


「大丈夫です。俺の客は、何も言わせません」


「おっと、言うね~」


「アリスさん可愛いし、一緒にいて楽しいから・・・」


俺は、隼人の耳元で囁く。


「おいおい・・・もしかして、お前アリス狙ってる?」


「いいえ、どんでもない。アリスさんは、遼さんのものでしょ?」


「ものって・・・」


「協力しますよ」


「お前、いいヘルプだな~」


俺は、隼人の肩に手をかけ涙を腕で拭く素振りをする。


(こいつ、俺の為にわざわざ付き合ってくれるのか?)


「何、二人でこそこそ話しているの~?野郎二人でいやらしい」


気がつくと背後にアリスが立っていて声を掛けてきた。

俺は、慌てて振り向いて答える。


「いや・・・仕事の話」


 

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