第40話 女詐欺師?

相原の客で、ホストの身に着けているものを借りようとする客がいる。

梶の客だった女。


ある時、その女が真樹に目をつけたようだ。


「閉店までそれを付けさせてよ。帰りまでには、絶対返すから。」


そう言われて、いつも断っていたはずの真樹も、あまりのしつこさに仕方なく貸してしまう。


ブレスと指輪。


帰る時に返してもらえるから大丈夫だろうと思っていたらしい。

しかし、その女は真樹が席にいない間に、そそくさと会計をすまして帰ってしまう。


「遼、やられた!」


「ん?どうした?」


店が終わってから、その出来事を相原に報告すると、梶の客だったから連絡場所を聞いていないと言う。

それから女が全く店に来なくなる。


相原が真樹に話す。


「女も女だが、貸すほうも馬鹿なんだよ」


「すみません」


「お前も、いい勉強になっただろ!」


冷たく言い放つ。

相原は、口ではそう言いながら女の行方を探していてくれた。


「あの女、他のホストクラブにも出入りしているはず」


店長に頼んで、他のホストクラブにも聞いてもらっていた様子。

すぐに、その女は見つかる。

他の店でも同じ様にホストをカモにして貴金属を騙し取り飲み歩いていた。

ひどい所ではツケを何十万と踏み倒している店もあるらしい。


ある店のホストと一緒にホテル住まいをしている情報を得る。

すぐにそこへ乗り込むことになった。


「よし、行くぞ!」


相原は、仕事が終わってから俺や真樹以外にも腕っ節の強そうなホストに声をかける。

相原を先頭に、女がいるホテルに向かう。

部屋のベルを鳴らすと女の声。


「だあれ?」


眠そうに目をこすりながら警戒もなくドアを開ける。


(あの女だ)


「どけ!こらぁ~」


「キャー」


相原は女を押しのけ女が倒れ込む。

女を上をまたいで部屋の奥に入っていく。


「うぉら~~」


ベッドで寝ている男にいきなり蹴りを入れ起き上がったところにすかさず拳をいれる。

鼻と口から、血がしたたり落ちる。

男は、何がなんだかわからず唖然としていた。


(刺青?。やくざもん?)


背中には、刺青が入っている。

相原は、気にする事もなく怒涛をあびせる。


「お前か!ホストだまして金品を女に騙しとらせている奴は!」


「なんじゃわれー!こんな事してただですむと思うんか!」


男は、ようやく我に帰り大声を出して抵抗する。


(関西人?)


「うるせえんじゃ、こらー!」


相原も負けてない。


「わしを殴る理由を言わんかい!」


「お前はやくざか?ホストか?」


「ホストじゃー」


よく見ると刺青は、背中だけではなく全身に入っている。

やくざ上がりのホストなのかもしれない。

こちらが大勢で乗り込んできたので、ひるんだのかそれ以上反撃はしてこない。


興奮の収まった相原が、すべてを順々に説明する。

俺は、少々驚いている。

あのいつも温厚な相原が、こんなにも攻撃的な気の激しい男だったとは・・・。

そんな相原に恐怖を感じる。


真樹が俺の耳もとで囁く。


「見てみろよ。あいつ俺のブレスと指輪をしている。」


相原も同じ様に気付いた様子。


「その付けているものはどうした?」


「この女にもらったんじゃ。」


「これは、こいつの物だから返してやれよ。」


男は、素直に言われた通りはずして真樹に返す。


「何か言う事は?」


「何がや」


「こいつにだよ」


「ああ・・すまんかったな」


「いえ・・」


真樹は恐縮して答える。


その後、女をすごい形相で睨んでいる。

詳しく話を聞くと、そのホストは何も知らなかったらしい。

そのホストが女にやらせているのかと思い殴ったのだが誤解だとわかる。


「いきなり殴ってすまんかったな」


「ああ、もうええよ。こっちも悪いんやし」


「しかし、新品じゃない貴金属を疑いもなく身に着けていたお前も悪いんだぞ」


「そやな」


「わかってくれたならいいよ」


「もう最悪やな、この女〜」


「ちゃんと、しつけといてくれよな」


「ああ、わかった」


女は、その男にまかせるという事で話は丸く収まる。

真樹は貴金属が戻ってきて、ホッとしている。


その女はあの後、ボコボコに男に殴られたようだ。

次の日に男に言われて来たんだろう。

目の周りや顔に青あざを作り泣きながら相原に謝りにくる。

相原は、その場に真樹を呼ぶ。


「俺に謝らないで、こいつに謝れよ。」


「ごめんなさい」


「俺は、これが戻ってくれば何も言うことないから」


「だってよ。もう帰っていいから。この店には二度と来るな」


「うん」


そして、女は店を出て行く。


とんだ災難だった。

しかし、

真樹には誰も想像のできない、もっと大きな災難が降り注ぐことになる。






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