第120話 ホテトル嬢③
「いえ、何回誘っても乗ってこなくて・・・」
「あの女は、あまりいい噂を聞かないから手を出すなよ」
「どんな噂ですか?」
「住む所がなくて男達の家を転々としているらしい」
「それが悪い噂?問題ないですよ」
「男が暴力団だったとしてもか?」
「・・・」
「付き合う男はみんなその筋の男らしいぞ」
「マジか・・・」
俺は、それを聞いて尻込みして気持ちも萎えてしまう。
「手を出したホストは、みんな店からいなくなっているって噂だぞ」
「まさか・・・」
俺の頭に過去の悪夢がよぎる。
(またか・・・)
そんなある日、いつもさっさと帰るはずのちさとが、閉店まで飲んでいる。
「ねえ、遼~泊まるところがないから泊めて」
「泊まるとこって自分の家があるだろ?」
「う~ん、ちょっと訳ありでさ」
「俺の家って寮だよ」
(何の訳ありなんだ?)
「他の人いてもいいからさ」
「う~ん、それは・・・」
(他に男がいてもいいって、どういう意味だ?)
「みんなに聞いてみないと」
「お願い!」
ちさとは、手を合わせて頼んでくる。
上目使いで薄目を開けたりつぶったりしてこっちをチラチラ見ている。
(相変わらず仕草がかわいいなぁ)
「ちょっと待ってね」
(聞くのは、めんどうだな)
俺は、1人1人聞いてまわる。
京介と西城は女の家に行くと言う事で了承を得る。
こういう事は、たまにあるのでお互い様だった。
女の家じゃないの?
ほんとに寮に住んでいるの?
そう言って、部屋を見たがる女は多い。
そんな時はお互いに協力する事にしている。
今回は特殊な事情という事になるのだろうか・・・。
相原は、普段寮に泊まらないから問題ないが、一応聞いてみる。
「お前この間の俺の話、忘れたのか?」
「いや、わかっています。ただどうしてもって言うので」
「知らねえぞ~後の始末は、自分でしろよ」
「はい」
「まあ気をつける事だな」
「手を出しませんから大丈夫です」
「お前が、我慢ね~・・・できるかな」
相原は横目で俺の顔を見る。
「そんな俺、好き者じゃないですから」
俺は声を荒げて言う。
「わかった、わかった。まあ、ほどほどにしておけよ」
「はい」
(ほどほどってどこまでの意味になるんだろ?)
相原に言われて複雑な気持ちなったが、泊める事にする。
部屋で二人で顔を見合わせて座っている。
「何で家に帰らないんだよ?」
「これ・・・」
ちさとは洋服の袖をあげて腕を俺に見せる。
(え?)
「なんだ?このアザ」
「男にやられた」
「どこの?」
「一緒に住んでいる男・・・」
「男と一緒に住んでいるの?」
(やっぱり噂は、本当だったか)
「うん」
「もしかして、この前の顔のアザもそう?」
「うん」
「男って、なに者?」
「やくざ」
(やっぱり・・・)
「そっか・・・いつも暴力?」
「うん。酔うとね」
「なんでそんな男と一緒にいるんだよ」
「普段は優しい人だから」
「だって、やくざだろ?」
「それは、たまたまそういう職業だったから」
「職業って・・・」
「もう、寝ようよ」
「あ・・ああ」
布団に一緒に入る。
ちさとは俺にしがみついてくる。
「ちょっと」
突き放そうとしたがさらに絡み付いてくる。
強引に突き放すのも可哀想なので仕方がなく俺も抱きしめる。
(神様助けて~)
俺は、抱きしめながらも自分と戦っている。
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