第36話 ナンバー1の失踪①
俺は、少しずつだが売り上げが伸びて順位が上がっている。
真樹も同じように順位が上がっている。
二人はヘルプ数が多いので枝を拾うチャンスがおのずと増えていく。
しかし、うちのグループの先輩達の話術の足元には到底及ばず、枝を拾うチャンスは中々巡って来ないのが現状だった。
梶は相変わらず自由出勤。
店に滞在する時間がほとんどないに等しい。
それでもナンバー1の座は揺らいでいない。
そんな梶がここ一週間ほど店に全く顔を出さなくなる。
俺と真樹は、待機しながら話している。
「遼、梶さん、今日も店に来ないね」
「変だよな~いつも席に座らなくても顔だけ出してたのに」
「だよな、店に来て客の見送りだけはしてたのに」
「それでも、指名を取り続けているのが七不思議だけど・・・」
「一週間も欠勤なんて、今までないのに、絶対何かあったよ。遼、そうは思わん?」
「内勤に聞いてみようか」
俺は、主任に声をかける。
「主任、梶さん店に休みの連絡は入ってる?」
「ないよ」
「そうですか・・・」
(赤坂さんなら知ってるかな?)
「真樹、俺、後で赤坂さんに聞いてみるよ」
「そうだな」
お客がどんどん入ってきて慌しくなる。
梶のお客も相変わらず来ている。
「ねえ梶どうしたの?」
「まだ来てないんです」
「もう一週間、音沙汰なしって有り得なくない?」
「すみません」
「どうなってるのよ~」
こんな言葉が、あちこちの席で出てくるようになる。
どの客も連絡もなく、居場所もわからないと言っている。
それでも毎日、梶の指名で何組もやって来る。
(指名者がいないのわかってても店に来るって凄いな)
ほとんどの客が文句を言いながら店を後にしている。
(何かおかしい・・・)
その後、何度店長に聞いても店に連絡なく無断欠勤。
2週間が過ぎ、俺達は梶の客の対応でほとほと疲れている。
酒に酔って店で暴れる客まで出る始末。
「もうみんな限界に達しているな」
「俺達も、もう限界だよ」
いつものように店に出勤すると、目つきの悪いビジネススーツを着た男が二人座っている。
(何だあれ)
どうみてもホストには見えない容貌。
「遼、来たか。ちょっとあの人達の話を聞いてくれ」
「何ですか?」
「まあいいから話だけ・・・警察」
店長は小声で言う。
「警察?俺、何もしてないけど・・・」
「話を聞きたいそうだ」
「ふ~ん」
俺は、男達の傍に行く。
「何ですか?」
「こういうものなんだけど」
その男達は、俺に警察手帳を見せる。
「はぁ・・」
「ちょっと見て欲しい物があるんだけどいいかな?」
「いいですよ」
一枚の写真を俺に見せる。
「これ見てわかるかな?」
泥だらけの靴の写真。
「きたない靴ですね」
「見覚えないかな?」
「うーん・・・」
(どこかで見たような・・・ん?)
俺は、頭に思い浮かぶ。
(これって・・・)
梶の履いていた靴に似ている。
普通の人が履かないような、ド派手なワニ皮の靴。
刑事が俺の顔を下から覗き込む。
「どうかな?」
「う~ん」
確信はないので答えるのをやめる。
「じゃあ、普通は見せないんだけどこの写真見てくれる?」
「うわ~ひどいな~」
目をそむけたくなる様な写真。
遺体の写真のようだが、顔は見えないように隠してある。
「顔は、見れないんですか?」
「顔は、判別できないくらいひどい状態だから見てもしょうがないんだ」
「そうなんですね」
「だけど服とか諸々見て、何か感じないかな?」
(このスーツはなんとなく見覚えあるような・・)
「ホストか、やくざが着るようなスーツですね」
「あっ!・・・」
「どうした?」
刑事が身を乗り出す。
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