第140話 半同棲女との血だらけ部屋⑧
部屋に入ると西城が寝転がっている。
「お・・・西城、帰ってきてたのか」
西城は困惑した表情で起き上がる。
何か言いたそうな顔。
「どうした?そんな顔して・・・」
「遼さん、この荷物って?」
俺は、置いてある荷物を手にして片付けながら答える。
「夏子の部屋にあったもの」
「やっぱり・・・あの日、なんかあったんですね」
「実は、行ったら部屋の中が血だらけでさ」
「えー!マジ?」
「夏子は、今病院」
「なっちゃん、大丈夫なんですか?」
「あいつさ、薬と酒でぶったおれて頭ぶつけて血を噴いてた」
「あちゃ~」
西城は、目を細める表情。
「部屋の掃除に一日かかったよ」
「呼んでくれれば手伝いましたのに」
「いや・・・見たらビビるよ」
「そんなにひどかったすか?」
「かなりね」
「大変だったんすねえ」
気のない返事。
(こいつ、きっと手伝いで呼んでも来なかっただろうな)
「病院運んで、次の日見舞いに行ったら妹に姉貴と会うなって言われてさ」
「へえ~」
「もう、ゆっくり話も出来なくてさ」
「それで?妹の言われたとおりにするんですか?」
「もう、来ないでくれって突き飛ばされたよ」
「マジですか?すげ~女だ」
「夏子と一緒で気が強そうな女だった」
「そんな妹がいるんじゃ近づけないっすね」
「夏子とは他にもいろいろあったし、もういいかなって」
「例の盗聴の話ですか?」
「そうそう、あれじゃあ、仕事にならないよな」
「いいお客なのに、残念ですね」
「こうなったら、金の問題じゃないよ」
「そんなもんですかね~」
「おかげで寝不足」
荷物もスーツも片付けも終える。
布団にもぐりこむ。
「仕事の時間になったら起こしてくれ」
「はい」
眠りにつきながら、あたりが暗くなるのを感じる。
西城が、気を使ってカーテンを閉め電気を消す。
(意外に優しいやつ)
それから数日後。
出勤して店の階段を降りていくと、店長から声をかけられる。
「遼、社長が呼んでいたぞ」
「社長が?・・・なんだろ?」
「明日、事務所に来いってさ。お前、何かやったのか?」
「さ~何もしてないはずだけど・・・」
俺は両手を広げて答える。
(なんの用事だ?)
接客中も気になって仕方がない。
タバコの吸殻がいつもより多くなる。
「遼~何考えているの?」
「ああ・・・ごめん。何でもないよ」
「タバコばっかり吸ってて、全然会話しないじゃん」
「はい、はい、ダンスでも踊りましょ」
俺は、ダンスを踊って気を紛らわし考えない様にする。
次の日、早めに起きて事務所に向かう。
「おはようございまーす」
ドアをそっと開ける。
「失礼しまーす」
ソファーにふんぞり返って座っている社長がいる。
「おお~遼か。ここに座れ」
「はい・・・」
社長の前に恐る恐る座る。
「実はな、お前の客で夏子っているだろ?」
「はい」
(あちゃ~、夏子の事か)
俺は、手で顔を覆う。
「何かあったのか?」
「はあ~ちょっと・・・」
「その子の家族から電話があってな」
「はい」
(あの妹か?)
「ちょっと、まずい事になっているんだ」
社長は困った顔をして俺を見ている。
「なんでしょう?」
「お前と店を警察に被害届け出して、訴えるとか言ってきててなあ」
俺は、親指で自分を指差しながら。
「何で俺が?」
「理由はなんであれ、女を病院送りにしたのは事実」
「いや、俺は全く関係ないですけど」
「ただし店を辞めるなら、何もしないと言うのさ」
「マジですかあ・・・」
俺は思いっきりソファーに、もたれかかる。
「しばらくでいいから、店休め」
「そんな理不尽な・・・」
「それで相手が納得するんだから頼むよ」
社長は手を合わせて頼む仕草をする。
「う~ん、納得いきませんが社長がそこまで言うなら・・・」
社長が上目遣いで俺を見ている。
(ていのいい厄介払いだな)
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