第10話 女の失踪

「もしもしオーナー、店長が消えました」


「なにい!」


「それも売り上げも一緒になくなりました」


「なんだって!あのやろう」


電話の向こうではオーナーは声を張り上げる。

店長が姿を消す。

すぐオーナーは、店にやって来る。


「あのやろ~なんだって持ち逃げなんかしたんだ?」


「おまえら知ってるか?」


「いえ・・・」


「あんな、はした金で馬鹿なやつだ・・・まあいいや!おまえらは仕事続けてろ」


「はい」


偶然その日から女が一人無断欠勤している。

めぐみもその日から出勤して来ない。

オーナーは、女の管理までしてないから言わなければ気づかないだろう。


「偶然か?いや違うだろうなぁ」


(店長はめぐみと逃げたか?)


めぐみの部屋へ合鍵を持って見に行く事にする。

インタホーン鳴らしても応答も無いし、人の気配がしない。

中に入ると衣類だけがなく、あとはすべて置いたままの部屋。


「まさかなあ」


しかし、俺は部屋である物を見て確信する。


「やっぱりか!」


ふと不思議に思う。


「何故、店長は金を持って逃げるという危険を冒したのだろうか?」


(店のバックに組織がついているのは知ってるはずなのに・・・)


もともと女癖が悪く若い女に金をつぎこんでいて金銭的に苦しいのは知っていた。


よく店に遊びにきている、あこがれのやくざの親分がいる。

気前がよく見た目もかっこいい。

店長の行方を、その男から知る事になる。


「よお!青年!いつも真面目に働いてるな~」


「あ、ご苦労様です」


「そろそろうちの若い衆にならないか?」


「またですか?やめときます」


「そんなこと言わないで来いよ。悪いようにはしないよ」


「やくざになったら親が泣きますって」


「そっか・・・楽させてやれるぞ!しかし親の事を持ち出されると無理強いできねえしな~」


顔は怖いが優しい心の持ち主だ。

俺は、やくざの新米は鉄砲玉にされて死ぬというイメージしかない。


(ドラマや映画の見すぎかな?)


興味はあったが断り続けていた。


「そう言えば、ここの店長、若い女と一緒に逃げたんだって?」


「そうなんですか?」


俺は、わざと驚いたように答える。


(バレてる・・・)


俺は、一緒に逃げた女がめぐみだろうと確信している。

めぐみの部屋で見たある物とは、店長と同じ銘柄のたばこの吸殻や空き箱。


「あいつ手配されているらしい」


「そうなんですか~もう見つかりました?」


「俺らの情報網は警察よりすごいからな~すぐ見つかるよ」


「見つかったらどうなるんですか?」


「さあな〜どうなるんだろな・・・」


親分が、含み笑いをしたのを俺は見逃さなかった。

俺がめぐみと関係は二人しか知らない。

俺との繋がりもバレたらどうなるのか不安に思う。


(めぐみは、きっと言わないよな)


そう思う事にする。

俺はめぐみと店長の無事を祈る。


そして俺の人生の転機がやってくる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る