第52話 ホスト引退②
「やはり行ってる?」
「まさか~ここには来られないでしょう」
「何で?」
「遼さんの永久指名だから」
「俺は、そこ辞めたから平気だろ?」
「いいえ、辞めた事になってないですよ」
「何で?」
「赤坂さんは、みんなに戻って来るって言ってますよ」
「あ、そう・・赤坂さんがね~」
(何でだろう?)
「だから、いつでも戻れる状態になってますよ」
「そうなんだ。じゃあわかる人いないかぁ」
「いるじゃないですか~業界の情報筋。相原さんが」
「そっか、聞いてみてくれないかな?ゆうこは飲みに一回しか行ってないって言い張るからさ」
「自分で直接聞いたらどうですか?」
「いや、迷惑かけたし、まだちょっと話しづらくてね」
「相原さんは、遼さんの気持ちをよくわかってるし、気にしないで大丈夫ですよ」
「そうか」
「まあいいっす。ちょっと待ってて下さい。今いるから聞いてみますね」
「悪いね」
電話を切らないでそのまま待ってるとすぐに戻ってきて受話器をとる。
「もしもし、一回だけじゃなく度々顔出してるみたいっすよ」
「さすが相原さん、答えが早いね。やっぱりそうか〜」
俺は、店名と指名しているホストの名前も相原からすぐに教わる事ができた。
前から思っていたが、知ってても聞かない限り何も言わない所が相原の不気味な所でもある。
ゆうこに問い詰めると、ゆうこは開き直る。
「だって遼といてもつまらないんだもん」
「まじめに働いているのにか?」
「刺激がなくて・・・」
「はあ?訳わかんない事を言うなよ」
「ホストじゃない遼には魅力を感じなくなってきたの」
「なんだって!どっかで聞いたような話すんなよ」
(結局そうなるわけか)
「だって~」
「別にお前の為に真面目に働いてる訳じゃないけどな」
「だったら・・・」
「だったらなんだよ。ホストにもどれって言うのか?」
「・・・・」
「あの事件を忘れたくて、ホスト以外の仕事だったら何でもよかったんだよ」
「それは、わかるけどさ」
俺は、一人でいる時間がたっぷりあったので、いろいろ考えていた。
サラリーマンとソープ嬢とでは収入の差がありすぎて、いずれ二人の間に亀裂が入るだろうと思っていた。
予想通りの結果になる。
俺は、ゆうこの言動にあまり動じなかった。
(ま、意外にもったほうだよな)
タクシーの運転手は、ゆうこの目にはつまらない男に映っているだろう。
そう、毎日感じていた。
毎朝、眠い目をこすって出勤して24時間勤務は、俺の中でも限界を感じていた。
しかし、またあの夜の世界に戻るのも気が重い。
(このへんが潮時なのかなぁ?)
「ゆうこ、俺ここを出て行くよ」
「え?どうして?」
「もう無理だろ?」
「どうしてよ」
「魅力ないなんて言われて一緒にいれないじゃん」
「またホストやればいいじゃない?」
「やらない」
(こいつは、俺じゃなくてホストが好きだったのかもな)
「ここを出て、どこに行くのよ」
「さ~決まってないけど、何とかなるさ」
「・・・・」
ゆうこは考えている様子。
「いいだろ?」
(修羅場か?)
「ふ~ん、まあいいわ」
「いいのか?」
(ちょっと不気味だな)
「仕方ないわね」
「いろいろ世話になって情はあるんだけどさぁ、この先お互いの為に離れたほうがいいだろ?」
(変な言い回し)
「そうね」
ゆうこも俺に対して気持ちが離れていたのかもしれない。
争いもなくすんなりと別れを承諾する。
俺は両手を上に上げ背伸びする。
(さぁて、次はどこに行かっかなあ〜)
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