第108話 人生を変える二人目の女①

「もしもし・・・わたし」


店に電話がかかってくる。


「誰?」


「わたしの声を聞いてわからないの?」


とっさに耳を受話器に押し付ける。

目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませ、声の主を考える。


「・・・・」


(またこれか・・・この言い方は困るんだよなあ)


「何百人も女の相手をしているからわからないんでしょ?」


「何百って・・・」


「わたしよ、夏子」


「だよね~そうだと思ったよ」


俺は、いつもこのパターンでごまかす。


「いい加減な事言って~わからなかったくせに」


「あはは、ばれたか、ごめん」


夏子には素直に謝る事にする。


「やっぱりね」


「生の声と電話の声じゃ全然違うね。電話越しだと色っぽいよ」


「わざとらしいわね。まあ、いいわ。連絡先教えたのになんで電話くれないのよ」


「だって実家の家電じゃ電話しづらくて・・・」


「何言っているの?私専用の電話だから平気だって言ったじゃん」


「あれ?そうだっけ?」


「もう~その気がないから、全然話を聞いてないのね」


「そんな事ないけど・・・」


「ないけど何よ?」


「・・・・」


(金を持ってなさそうだったからなあ)


「わかったあ~私金もないし、客にもならないからでしょ?」


「そ、そんな事ないって」


(するどいな)


思わず受話器を落としそうになる。


「せっかくお客として行ってあげようと思ったのに~やめようっかな~」


「え?何?飲みに来るの?」


(急にどうした?)


「ほ~ら急に声のトーンが変わったじゃん。金、金、金、金ってホストはやだね」


「ひどい言い方だな~当たっているけど。」


「まあ、そんな事を気にする私じゃないけどね」


「ハハハ、だよな。だけど、ほんとにどうしたの?」


(この性格、いいよなあ)


「何か、久しぶりに遊んだら楽しくてね」


「そっか」


(さては、久しぶりのホストクラブで火がついたのか?)


「お酒も美味しかったし」


「そかそか」


「楽しかった時間を思い出してウズウズしてる」


「でも金ないんだろ?」


「もう~金、金、言わないでよ」


「だって飲むには金がいるだろ?普通の居酒屋と違うから」


「貯金がまだ少し残っているから大丈夫よ」


「ふ~ん」


(貯金を使い果たしたら、またソープに働きに行ったりして・・・)


「ふ~んってまた何か悪い事でも考えてるんでしょ?」


「いや、何も考えてないよ。ところで、指名は俺で来てくれるのかな?」


(何も考えてなさそうなのに、実は勘が鋭く頭の回転が早い女なのかな?)


「そうよ」


「そっか、サンキュー!ちょっと先輩に相談して折り返し電話するよ」


「相談なんか必要なの?」


「三条さんは、もういないから平気だろうけど、一応筋道を通さないとね」


「変なの」


「うるさい人がいるから・・・」


「あのおやじね」


「いや~ははは」


「わかった。じゃあ電話ちょうだい」


「うん」


電話を切ってから考える。


「どう赤坂さんに話をすればいいやら・・悩むなぁ」

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