第154話 経営者の道③

「ひとみちゃん、風邪?」


「この声ですか?」


「そう」


「これ、普通ですよ。ハスキーなんです」


「そうだったんだ」


「仕事楽しい?」


「楽しいわけないですよ」


「そうだよな」


(俺、何て馬鹿な事を聞いているんだろ)


「辛い?」


「やりたくないです」


「昼間は、何かやっているの?」


「はい、地元のスポーツクラブで子供達に水泳を教えています」


「なるほど~だから肩幅あるんだ」


「いや、それは関係ないかと・・・」


彼女は苦笑い。


「胸も大きいし水泳で鍛えられたんだ」


「何が言いたいんですか?」


ちょっとムッとした顔。


「ごめん、なんでもないよ」


(ほんと何が言いたいんだろ?)


「セクハラですよ~」


瞳は笑いながら言う。


「ごめん、ごめん」


(どうもホストの時のように上手く口説けないな)


瞳は、俺に脈がないと判断する。

あゆみも今は一緒にいる事だし、諦めることにする。


ある日、家賃を払っているヤクザの事務所から電話がくる。


「ちょっと事務所に来てくれ」


「はい」


俺は、ゆっくりと受話器を置く。


「うわあ、行きたくね~何だろう?」


「どうしたの?」


そばにいたあゆみが心配そうに聞いてくる。


「やっちゃんが来いってさ」


「あらら、大変。がんばって」


「お前は、のん気でいいなあ」


俺は、足取りも重く事務所に向かう。

ドアの外に立つ。


(相変わらず威圧感ある入り口)


ノックをする。


「うぉーい」


ドアが開く。


「失礼しま~す」


「おう、来たか」


そこには、見た事のない男がいる。

親分よりも偉そうに踏ん反り返って座っている。


(うわ~また顔が凶器みたいな男)


「何か御用でしょうか?」


「うん、ちょっとな」


親分は、そういって男の顔を見る。


(絶対やばいやつ!何かやってそうだ・・・)


俺は、その男と目を合わすことができない。


「こいつがこれからお前の店の担当になるから、よろしく頼むな」


男は何も言わず手を上げて挨拶をする。


(え?まじかよ)


今時見かけない、やくざ映画に出てくるような格好。


「そうですか・・・よろしくお願いします」


俺は、深々とお辞儀をする。


「何だよ、お前嫌そうだな」


男は、そばに来てお辞儀している俺の顔を下から見上げて言う。


「いや、そんな事ないです」


「こいつ、ムショから今出てきたばかりだからよろしく頼むよ」


(やっぱり・・・よろしくと言われても)


俺は、困り果てる。


「20年くらい食らっていたから、今の世の中わからないかもだなぁ」


親分は笑いをこらえてる様子。


(なるほど、だから時代遅れな昔のヤクザ風な格好なんだなって風じゃなくヤクザか!)


「おい、何かあったら俺をすぐ呼べよ」


「はい」


(絶対呼ばねえ)


俺は、一礼をしてからドアの外に出る。


「では、失礼します」


ドアをソッと閉める。


「ふう~~」


帰りは、更に足取りが重い。


「ただいま」


「どうだった?」


「最悪」





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