第168話 何故逮捕?①
「何時何分逮捕」
「は?何?」
「逮捕だよ」
「どういう事?」
「すぐには帰って来られないから、洗面道具と着替えを用意しろ」
「帰って来られない?」
「そう」
「何で?」
(まじかよ)
訳が判らない。
「ほら、早く準備しろ」
「準備しろってこの手を離してもらわないと・・・」
俺は、取り押さえられていて身動き出来ない状態。
刑事が離す様に指示。
自由になった俺は、仕方なくブツブツ言いながら用意する。
「あゆみ、これどういう事?」
「何だかね~まあ、すぐ帰ってこられるでしょ」
「わけわかんね~よなあ」
準備が終る。
「こんなもんでいいのかな?・・・でも洗面道具って泊まりって事?」
「準備出来たかな?」
「はい」
「じゃ手を出して」
「え?」
(マジかよ)
「手錠を掛けるから両手を前に出しなさい」
「何で?逃げも隠れもしないよ」
俺は両手を引っ込める。
「いいから・・・規則だから」
「規則って何?」
「早くしろ」
後ろに1人の刑事が立つ気配を感じる。
(俺が逃げると思っているのか?)
「何か嫌な感じだな~」
俺は言われた通り両手を前に差し出す。
(後ろから凄い殺気を感じる)
もう何を言っても無駄だと観念する。
しっかりと手錠をかけられる。
初めての体験。
ずっしりと重く冷たい感触。
(気のせい?・・・両手が上がらないくらい重く感じる)
「はい、腕あげて」
手錠に繋がった紐のような物を腰から後ろにまわされる。
「ここまでするの?」
俺は、犬のように後ろから紐でひっぱられながら歩かされる。
手には、洗面道具の入った紙袋。
俺は自分の腕を眺めながら歩く。
(この手錠、想像していたのと違うなあ)
テレビでよく見ていた銀色の手錠と違い、真っ黒な手錠。
(新しいバージョンか?)
狭いエレベーターに4人の刑事に囲まれながら乗る。
「なんか仰々しいっすね」
「・・・・」
(シカトかよ)
「俺、凶悪犯みたいっすね」
「・・・・」
(おいおい、何か言えよ)
さっきまでよく話をした刑事まで何も言葉を出さなくなる。
エレベーターを降りると両脇に刑事が立つ。
俺は、抱えるように連れて行かれ外に止めてある車に向かう。
俺は連行される途中、ある事に気づく。
それは、マンションの外に出た瞬間に俺を抑えている手が力が強くなる。
刑事達の緊張感が伝わってきたのだ。
(そっか、わかった。俺が逃げるかもしれないからだな)
外に出た時に逃走される確率が上がるからなのだろう。
(逃げやしないのになあ)
車に乗せられる。
見かけは普通の乗用車。
「これが刑事の車か・・・」
赤いサイレンが車の上に付いている。
(まさしく刑事ドラマの世界だなあ)
刑事達の緊張が解けていくのを感じる。
(俺は犯人のようだなあ)
他人事のように思いながら車に座っている。
車の窓からふとベランダを見上げるとあゆみが心配そうに見ている。
その目には、涙が光っている。
(あいつ何泣いてるんだ?さすがのあゆみも泣くってか・・・)
俺は、手錠で両手が繋がっているので両手で手を振る。
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