第54話 ホスト復活②
支度金。
聞こえはいいが、返さなくてはいけない金。
バンスと呼ばれていて無利子の前借りの借金みたいなもの。
それでも仕事から離れていた俺には、助かる。
このバンスの他にも回収出来なかった売掛なども店への借金となり、それがどんどん増えていって辞めたくても辞めれないホストも多い。
俺はこの頃、競馬で借金をしていた。
ゆうこにお金の迷惑をかけまいと、ノミ屋で大きな掛け金で勝負をしていたが負け込んでいた。
現金で馬券を買わずに、後払い精算で買う方法。
違法の闇賭博。
1レースからの負けを取り戻そうとして最終レースには何十万と掛け金が上がっていく。
負けた時は、後で集金係がやってくる。
いよいよ首がまわらないくらいの状態になっていた。
新しいスーツ代や引越し、借金の返済などで二百万ほど必要だった。
言い値を貸してくれると言われたが、必要な金額だけ借りて店に入ることにする。
借金があれば、がんばる励みにもなるだろう。
後で知った話だが相原の支度金だけは返さなくていい金だと知る。
(何でだったんだろう?)
俺は、とりあえず昔の客に連絡をとってみる。
この店で指名者がいる客が意外に多い。
聞かされてなかっただけで、色んなホストクラブに出入りしている事をこの時知る。
そういう客は残念だがここでの指名は諦めるしかない。
客が指名者に前の店で指名していた俺の話をすると指名者が好意でヘルプで席に座ってくれと言われるが、挨拶程度であとは席に着くのを避ける。
肉体関係もあった女の席に座っても、わかっているであろう指名者の前での会話はやりずらいし嫉妬も生まれるかもしれない。
また、俺と過ごした人には聞かれたくない様な話もしているかもしれない。
座って乾杯程度でいるとヘルプも自然と入らなくなる。
前回ホストをやっていた頃は、複数の女を相手に神経が休まる日がなかった。
「ゆうこ一人になって、気持ちが楽だったのになぁ」
一人だけを思い見つめる事がこんなに安らぐのかと実感していた。
しかし、また大勢相手に神経を使うのかと思うと少々気が重くなる。
「今は、そんなことを言っている場合じゃねえか」
「やるしかないな」
自分に言い聞かせて奮起する。
引越しの荷物は、ほとんど衣類だけなので楽なもの。
引越し先にいる同居人となる相原のヘルプ西城という男。
俺がいない間にグループに入った男らしい。
面識はない。
気さくで超が付くくらい明るい男の様だ。
俺よりも年下で、相当な女好きと聞く。
(どんな男やら・・・)
相原いわく、暇さえあれば歌舞伎町に繰り出してナンパして部屋に連れ込む男らしい。
女が趣味と実益になっている男のようだ。
相原は、女の家を転々としていて、ほとんどこの部屋に寝泊りする事はない。
店の出勤前に、たまに着替えに戻ってくる程度。
俺もそれに見習って客の家を泊まり歩くようにしようと思う。
「俺は遼。よろしくな」
「いろいろ話は聞いてます。大変だったみたいですね」
「今は落ち着いたし、もう忘れたよ」
(何を聞いてるんだか・・・)
「楽しくやりましょう!今からナンパいきますか?」
「いや今日は、遠慮しとく」
(毎日ナンパ、ほんとなんだな)
「なんだ、残念だな。じゃ一人でいってきま~す」
今までとは違う商売のやり方も取り入れないと生き抜いていけないかもしれない。
枕ホストと言われてもどんどん女と寝て、泥臭くやっていなかいとダメだろう。
クリーンな商売だけでは売り上げは伸びない。
(よし、やるぞ!)
引越しも終わり、出勤前に俺と相原と西城と三人揃う。
「店は、来月から移ることになったから、そのつもりでいてくれ」
「はい。新しい店か・・・売り上げできるかな?」
「店は変わってもグループで移動だから、どこでやろうが同じだろ」
「そうですよね」
「会社が場所を移転して商売すると思えばいいさ」
「はい」
「この三人と、遼も知ってる隼人も店を辞めて新しい店に移って一緒にやる事になったから」
「あ~そうなんですか。それは、やりやすいですね」
「お前が来るっていったら喜んでたぞ」
「隼人は、遼さんの専属ヘルプだったんですよね?」
西城が言う。
「そうだったけど今度の店では、そういうの気にしないでやろう」
「そうっすね」
(軽いなぁ〜)
「遼も西城も新しい店で、どんどん仲間増やしていけばいいさ」
「はい」
そして、俺達は新たな戦場に乗り込む事になる。
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