第79話 同棲生活⑧
俺は由美の顔を覗き込むように見る。
由美は目線を合わせようとはしない。
しばらく沈黙が続いたが俺から言葉をかける。
「まあ、終った事は気にしない、気にしない」
「私、酔っていたとはいえ・・・」
「反省してるんだ?」
「うん・・・・」
(意外に素直)
「パ~ッと発散出来てよかったんじゃない?」
「・・・・」
「発散のやり方に問題ありだけどね~」
俺は笑いながら言う。
「ごめんなさい」
「片付けも大変だしさ~」
「ごめん・・・それに、最低の事をしちゃった」
「物を壊すのはいいけど、自分を傷つけるのはどうかと思うよ」
「うん」
「さあ、みんな忘れて飯でも食って元気出そうぜ」
「うん」
「しかし酒くさいな~酔っぱらって暴れそうだよ」
「・・・・」
(あはは、笑えないか!今は冗談が通じる状況じゃなかった)
部屋の散乱した状態は元に戻してほとんど片付き、後は壁と床の絨毯だけになっている。
「俺、頑張ったよなあ」
「お疲れ様」
「お疲れ様じゃねえよ~全く」
「ごめん」
「由美、謝ってばっか」
「ごめん」
「ほら・・・あはは!」
仕事の出勤時間が近づき店に電話を掛ける。
「店長、今日、店休みます。」
「そうか、わかった」
「相原さんや赤坂さんには、後で電話しておきます」
「そうしてくれ、お大事に」
店長も慣れた様子で詳しくは聞いて来ない。
夜になって、二人で話し合う事にした。
由美もだいぶ落ち着いた様子。
今後どうするかずっと考えていた結論を話す事にする。
「酒は、ぬけた?」
「うん、まだ少し頭が痛いけどね」
「腕は?」
由美は傷跡を見せながら答える。
「少しズキズキするかな・・・」
「今までいろいろ我慢して生きてきたんじゃないの?」
「そうかもね」
「そこで自分で終らせるのは、どうかと思うよ」
(俺・・・えらそうだな)
「うん」
「とことん納得するまでやって、駄目なら次の人生を見つけようよ」
「次って簡単に言うけど、難しいのよ」
「そう?」
「今は、その人しか見えてないから無理よ」
「そうだよな~」
(その人って俺だよな?他人事の様に言うんだな)
「ダメなら次の人なんて、そんな都合よく出来ないわよ」
「だよな」
「私が弱かったの。お酒で抑えが効かなかったと思う」
「そうだと思う。それでね、はっきり言っていいかな?」
「うん」
由美の顔が緊張でこわばる。
「由美にとっても俺にとっても、一緒に住むということはマイナスだと思う」
「わかってる」
「しばらく俺は、ホスト部屋に住むよ」
「ここを出て行くの?」
「別れる訳じゃないから荷物は置いとくよ」
(完全に出て行くと言って、またやられても困るし置いておこう)
本当は別れ話をするつもりだったがとっさに浮かんだ案に変更する。
由美は一瞬、安堵の表情をしたよう見える。
「しばらく距離を置こうよ」
「そうね」
お互い離れて生活することにする。
そのほうが由美も心配が減って、気持ちも楽になるだろう。
自信家ではないが、勝手にそう思い込む。
由美も自分のやった事に、反省していたのだろう。
すんなり納得して、一人で住むことを了承する。
そして、由美は立ち直ったのだが・・・。
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