第78話 同棲生活⑦

「ふぅ〜」


リビングの椅子に腰掛ける。


「ひどいな~どこから手をつけるかな~」


「ワンワン」


脅えていたのか、しばらく隅に居た愛犬が寄ってくる。


「お~!忘れていたよ。とりあえずご飯にしょっか?」


「ワン」


(おー答えた?かわいいやつ)


俺は、犬にエサをあげてからタバコに火を付ける。

部屋を見渡しながら、一服。


「今日は、このままでいいか・・・明日片付けよっと」


俺は、寝室の由美の所へ行く。

由美の腕を持って傷跡を見る。

何回も切った後があり、血も固まっていた。

さほどひどくはない。


「これは・・自傷行為ってやつか」


リビングに戻りあたりを見渡す。


「薬箱なんて、うちにあったかな」


使った記憶のない薬箱を探す。


「あった、あった」


「全然使った形跡なし。まさかこんな事に使うとは・・・」


足元では、まだ犬が夢中でご飯を食べている。


「よほど、お腹すいていたんだな」


寝室に戻る。


(よく寝てる)


包帯をまいて治療が終って、隣に座り抱きよせる。

寝顔を眺める。

泣きはらしたせいか目がはれて顔はひどいもの。


「ぶさいくな顔になっているな」


「うう~~ん」


(起きた?)


眠りながら俺とわかったのか、しがみついてくる。


「起きたの?」


声をかける。

しかし、起きる様子もなく、由美は眠り続ける。


(かわいい奴だなぁ)


ご飯を食べ終わったのか、ベッドの上に犬ものってきた。

二人の間の膝の上に寝そべる。


「お前もかわいいな~」


俺は、頭をなでる。


「おまえのママは、寂しがり屋さんだ」


何もわからず尻尾をふっている。


(由美は、しっかりしているようで弱い女だったんだなあ)


「しかし、どうすっかなあ」


(こんな事をされては、気が休まらないし仕事にならない)


これから、どうしたものかと俺は考える。

由美は、相変わらず俺の腕の中でスヤスヤと気持ち良さそうに寝入っている。


俺は、考えていたがすでに心の中で答えが決まっている。

しかし、由美には落ち着いてから話すことにする。


(今、話したら火に油を注ぐようなもんだ)


いろいろ考えているうちに、俺もいつの間にか眠ってしまう。

昼過ぎになっても、由美は起きない。


俺は、起きてすぐに管理会社に電話する。

絨毯の張替えと壁のクリーニングを頼む。

そして片付けながら大掃除を始める。


バタバタと音がうるさかったせいか、由美が起きた様子。

寝室のドアの隙間から俺の様子を伺っている。


(視線を感じるなあ)


俺は、気付かない振りをして、黙々と片づけをする。


(どうするか・・・)


目を合わせずらいので見るにみれない。


(責めてもマイナスだしな~)


しばらく掃除を続けててもまだ視線を感じる。


(何事もなかったように明るく振舞うか!)


ドアから出てこない。


(空気、おもいなぁ・・・仕方がない)


「あれ?由美。おはよ~」


俺は、由美の方を見て明るく声をかける。

返事は無し。


「また派手に暴れたなあ。覚えてる?」


「・・・・」


「も~片づけが大変だよ。一緒にやる?」


「・・・・」


(無視かよ)


「味噌汁作ったから、それでも飲んでなよ」


「ごめん・・・」


(おっ・・・しゃべった)






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