第31話 天秤
『『勝ったーッ‼』』
「やったでござるな‼」
この任務のボス 〔
魔龍は強かった。
ドラゴンという最強の幻想生物の 〔格〕 を存分に感じさせてくれた。だからこそ 〔簡単に勝ってしまった〕 と拍子抜けすることなく、強敵を打倒できたことに充実した達成感を覚えている。
チカッ──フワッ!
アキラの胸の勾玉が光り、体が浮かびあがって
アキラが大空洞の地面に降りたつと
横では
「やったね、レティ、アルさ──」
ワァァァァァァァァッ‼
アキラの声はいきなり上がった大歓声にかきけされた。声の主たちは、この大空洞にアキラたちが入ってきたのと同じ所から現われた、ふもとの村のドワーフたちだった。
この
この大空洞を含む坑道の、本来の住民。
彼らはアキラたちの前に整列。
村長の老年男性が頭を下げた。
「ありがとうございます、傭兵の皆様! よくぞ魔龍めを倒してくださいました。これで元の生活を取りもどすことができます」
‼ ありがとうございます ‼
村長の言葉に続いた他一同の合唱が大空洞にこだまする。助けたいと思った人たちを助けられ、面と向かってお礼を言われる。アキラは胸がじ~んとした──
が。
「え。この人たち、アタシたちが魔龍と戦ってるあいだ大空洞のすぐ外まで来てたっての? アタシたちを尾行して?」
レティは別のことに気を取られていた。
アルがレティにひそひそと耳打ちする。
「これは時短演出でござる……! 拙者らが魔龍討伐を報告するのに歩いて村まで戻るのはダルいでござるし、瞬間移動するのも不自然でござろう?」
「だから向こうから来てくれたんですか? アタシたちが魔龍を倒すタイミングに──あ、そうか。勝ったから 〔来てたこと〕 になったのであって、負けてたら来てなかったんですね」
「左様──」
「それでは、こちらがお礼の
「……あ、拙者か! 失礼、しかと頂戴いたす」
レティとひそひそ話をしていたところに村長から金貨袋を差しだされ、アルは慌てて受けとった。
この
➊オルジフ
➋アルフレート
➌アキラ
➍スカーレット
アキラたちはそのように番号を振っていたので初めはオルがリーダーだったが、魔龍との戦闘中に死亡したため、現在はアルがリーダーだ。
村長はそこにふれた。
「我らのために戦ってくださり、亡くなられたお仲間にも、改めて感謝を。そして、心よりご冥福をお祈りさせていただきます」
「痛みいる。奴もヴァルハラで喜んでおろう」
「「……」」
アキラはレティと顔を見合わせた。PCの死は一時的なもの、オルも今ごろ 〔始まりの町〕 で蘇生してピンピンしているはずだが、それは言わぬが花か。
「それでは、手前どもはこれにて」
「うむ。お疲れさまでござった」
「失礼いたします──みなの衆!」
最後に深く一礼した村長は、顔を上げると厳かな雰囲気から一変、パンパンと手を叩きながら声を張りあげた。
「作業開始‼」
‼ オーッ ‼
他のドワーフたちが一斉に駆けだし──周囲に無数に生えている巨大クリスタルの何本かに複数人で取りつき、なにやら道具を打ちつけだした。カンカン騒がしい作業音にムードが吹きとぶ。
「「え、なに⁉」」
「彼らは鉱夫──鉱石を採掘して生計を立てている人々で、この山はその鉱石が取れる鉱山、ここまで通った道はそのために掘られた坑道でござるゆえ……」
「それは分かってます! じゃなくて、
レティは宝石が好きらしい。
アキラも宝石を含め石が好きなので気持ちは分かった。
入口からここまでの坑道の壁にもクリスタルは生えていたが、柱のように巨大なここのものと違って小さかった。宝石の結晶は大きいほど価値が高くなる、割るなんてもったいない。
それに値段のことがなくても、常識外れに巨大なクリスタルなどという、いかにもファンタジーでロマンあふれる存在を割ってしまうのは、なんとも切ない。
(そういや魔龍も──)
アキラは魔龍が戦闘前にオルと話していた内容をぼんやり思いだした。魔龍がここに住みつきドワーフたちを追いだしたのは、彼らがこの景色を破壊するのを防ぐためだった。
この景色を守っていた。
それを自分たちが──
「確かに観光資源とする道もござろう。だが、彼らは鉱物資源とする道を選んだのでござる。巨大クリスタルから薄い結晶片を切りだし窓ガラスの代用品として売る、という」
「魔龍はそれを汚い金儲けって……でも、違うんですよね?」
「レティ殿、この手のことに正解はない。景観を守るべきか、ドワーフたちの判断を尊重すべきか。レティ殿の思ったままを否定する必要はないのでござる」
「でもアタシ、どっちかなんて選べない……アキラは?」
話を振られ、アキラは深呼吸した。
「ボクはこれでよかったと思うよ。まぁ、この巨大クリスタルが壊されて景色が荒れちゃうのは嫌だけど……それでも」
「それでも?」
「この
「そっか……うん! アタシも、そう思う‼」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます