第131話 格差

「空中格闘戦スタイルで空中騎馬戦スタイル相手に有効な戦法は色々と見つかったのに、その逆は体当たりしか見つからない? って思ったけど、よく考えたら空中格闘戦側の戦法も 〔相手より身軽なことを活かす〕 点ではどれも同じだよね」



 これまでの話をサラサラリィが分析した。


 相手の下にもぐりこむのも、相手の騎乗物に乗りこむのも、相手の左から後ろにかけてに回りこむのも、どれも自力飛行の空中格闘戦スタイルが他力飛行の空中騎馬戦スタイルより軽快だからこそ使える手。


 多様に見えて根っこは同じ。


 ならそれは、空中騎馬戦スタイルから空中格闘戦スタイルに有効と思われた戦法がどれも、当てかたに違いはあっても騎乗物による体当たりであったことと変わらない。


 それは、つまり──



「これまで空中格闘戦と空中騎馬戦の相違点は 〔飛行手段〕 であって他は違わないと、どこかで思ってた。けど違う。空中騎馬戦スタイルは騎乗物がある分、身一つで飛ぶ空中格闘戦スタイルよりデカい、それが最大の違いだったんだ」



 その言葉にアキラも頷いた。


 騎乗物に乗っているほうが全体としては大きい、それは見れば分かることで、さっきまでの地稽古のあいだも分かっていなかったわけではない。


 ただ、意識はしていなかった。それより自力飛行と他力飛行とでは操作感覚や飛行挙動が違うことのほうに気を取られていた。


 サラの言うとおりだ。



「ようはひょうだいひょうの戦いで、それは空中でも地上と同じだったんだ。勝つためには、小さいほうは軽さで相手を翻弄する、大きいほうは重さで相手を押しつぶす。なんか当たり前すぎるけど、これを意識してるのとしてないのとでは大違いだと思う」


「そうですね」



 〔計画〕 リーダーのセイネが同意した。



「大きさの違いによる有利と不利、それを意識していれば自然と動きの質が向上すると思います。早く試してみたいですね」


「だね! じゃ、話もまとまったことだし、休憩タイム終了! これまで学んだことを踏まえて、地稽古2本目いってみよう‼」





 2本目の組みあわせはこのようになった。



自力:セイネ

他力:アキラ


自力:エメロード

他力:アルフレート


自力:オルジフ

他力:サラリィ



 空中騎馬戦同好会から出向しているコーチであるサラは他力飛行による空中騎馬戦スタイルで固定、他の面々は1本目とは逆のスタイルになった上で、対戦相手を変更している。



 ババババババッ!



 再び6人がテーブルマウンテンの頂上から星のまたたく夜空に飛びあがり、3組に分かれて散開、それぞれに地稽古を始める。


 1本目で自力飛行だったアキラは今度は空亀に乗って他力飛行をして、飛行マントと飛行サンダルで自力飛行するセイネの相手を務めることになった。



『行くわよ、アキラ!』


「あぁ、どんと来い!」



 セイネは彼女の愛機・ジンドラグネットの武器と同じ三叉銛ファキナス(人間サイズ)を両手で構え、通信機能越しに宣言してから飛びだし、真っすぐこちらへ向かってきた。


 アキラも両手で握った剣を前に構えて、空亀を前進させる。


 このままだと正面衝突する。その場合こちらは騎乗物でセイネをねればいい。サイズ差で一方的にこちらが有利。先ほど、そう話したばかり。


 だからセイネはそうなる前に必ず針路を変える。



(さぁ、どう来る⁉)



 アキラは徐々に大きく見えてくるセイネの姿を凝視した。彼女の挙動がどう変化しても、すぐ対応できるよう意識を集中して。



 スッ


(下か!)



 衝突する直前というにはまだ早いタイミングで、セイネはプールに飛びこむように頭を下に向けて下降を始めた。これは騎乗物に乗った相手の死角である下方にもぐりこんでから、武器を投げつける攻撃。


 1本目の地稽古でアキラが考案した戦法だ。


 セイネは先ほどの会議で各チームが報告しあった戦法を、この機にひととおり試してみる気なのかもしれない。それで1発目にコレを選んだ。


 これならアキラも良く知っている。使う側としてはもちろん、使われた側の対処法も、1本目の相手だったサラから何パターンも見せられている。



 サッ!



 考えるよりも早く、アキラは自身が乗る空亀を左にスライドさせた。こうすれば、自身がサラからそうされたように、下からセイネが投げてくる武器を回避でき──



(⁉)



 アキラは目を見開いた。もしアキラが真っすぐ飛んだままだったらセイネの姿は真下に来て、空亀の体が邪魔で見えなくなっていただろうが、アキラが左にズレたことで相対的なセイネの位置は右下﹅﹅となり、空亀の陰から出て見えていた。


 そしてアキラの予想ではとっくに銛を投げ終わっていると思ったセイネはまだ銛を手にしており、体を旋回させて投げる準備をしている真っ最中だった。



「しまっ──」

『もらった‼』



 セイネは自分が下にもぐりこんだあと、すぐには銛を投げず、こちらがどう反応するか観察していたのだ。そして左に回避したのを確認してから、その行く先へと銛を──



 ブンッ──ガイィィィン‼



 ──アキラがそう理解した次の瞬間、セイネの投げた銛がアキラの乗る空亀の腹甲を強打した。〔回転斬り〕 の応用で武器を投げるコントロールもバッチリだ。



「やられたー! すごいやセイネ!」


『ありがとう! さらにいくわよ!』



 落下した銛を空中で拾ったセイネと再び対峙する。


 それからもアキラはセイネと、地稽古の制限時間5分が過ぎるまで何度も攻防をくりひろげた。


 そこでセイネは1本目でアキラが考えた〔もぐりこみ〕〔騎乗物狙い〕 に続き、アキラの母エメロードが考えた 〔乗りこみ〕〔落馬狙い〕、そしてアルアルフレートが考えた 〔回りこみ〕 をひととおり再現してみせた。


 アキラはその攻撃を一度も防げなかった。


 対してアキラも先の会議の結果どおり、セイネと接近する度に自身の乗る空亀をぶつけようと試みたが、こちらは一度も成功しなかった。ストレート負けだ。



(セイネ、強い……!)


『ありがとう、アキラ。お疲れさま!』


「う、うん! セイネもありがとう!」



 そして、地稽古3本目。


 アキラは再び自力飛行の番になり、他力飛行するオルオルジフと対戦した。そこでアキラは自分も会議で出た各技を全て試したが、先ほどのセイネのようには上手くいかなかった。


 そして、オルからの騎乗物による体当たりは何度も食らった。



(ボク、弱い……!)

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