第130話 衝突

「まぁまぁ、古典から学ぶのも大事だって!」


「サラ殿、お気遣い痛みいるでござる……!」



 古典的な対騎兵用戦法を対空中騎馬戦スタイルに用いたことをオルオルジフに 〔面白くない〕 と評され、落ちこんだ様子のアルアルフレートサラサラリィがフォローした。


 オルが「フン」と鼻を鳴らす。



「別に悪いとは言ってねぇ。使える手だとは思うぜ。まー、使い手次第ではあるがな」


「ふむふむ……って、どゆコト? もうちょい詳しく話して」



 言葉足らずなオルに、サラが説明を促す。



「相手の側面や後方に回りこむってな、旋回性能が同等の場合は相手の技量を上回る必要があるが、旋回性能が相手より高けりゃ多少の技量の差なんざ無視できるくらい簡単にできるだろ?」


「うん、まぁ、そーだね」


「そして空中格闘戦の自力飛行は、空中騎馬戦の他力飛行よりも旋回性能がたけぇ。他力飛行は騎乗物が加わって図体がデカくなる分、安定性は増すが小回りが利かなくなるからな。身一つで飛ぶ自力飛行のほうが身軽さは上だ」


「あ~、それはあたしも感じてた。その、自力飛行が他力飛行に勝る点を最大限に活かすナイスな戦法だよね、回りこみは」


「そーゆーこった」


「でも、多少の技量の差は無視できるってんなら 〔使い手次第〕 とは逆にならない?」


「ところがどっこい。これまでの話は空中格闘戦する側が自力飛行を使いこなしてんのが前提だが、オレたちはそのレベルに達してねぇ。騎乗物って足場があって地上での感覚を応用できる他力飛行と違って、身一つで飛ぶ自力飛行は人間にとって未知の領域で、難しすぎっからな」


「そんなに? あたし自力飛行しないから……」


「飛行マントとサンダル持ってんだから試しに一度やってみな。他力飛行じゃ常に水平を保つ騎乗物の上にいて引っくりかえることはねーが、自力飛行だと簡単に頭が下を向くぞ。その空中での姿勢を手足の振りでコントロールすんだ」


「うへぇ。大変そう」



 自分もそれで苦労したと、話を聞きながらアキラは思った。



「あぁ、大変だ。だからオレたち空中格闘研究会の人間でも、まだ経験が足りなくて思うように飛べねーんだ」


「ああ、ミーちゃんと密談した時、バニーちゃんもそんなこと言ってたっけ」



 名前が挙がったセイネバニーちゃんが付けくわえた。



「はい。つたない自力飛行でも射撃武器が使えれば、それなりに闘えるものですが。自力飛行で近接攻撃する空中格闘戦では、敵に接近するまでの精密な操作が求められます。真正面からぶつかっていくだけなら比較的容易ですが、回りこむとなると」


「実際アルの奴はオレの左や後ろに位置取ろうとしたが、自力飛行が下手クソなせいでオレからズレたとこにスッ飛んじまって、テメーの脳ミソで考えた理論を再現できずにいたぜ。〔使い手次第〕 ってな、そーゆー意味だ」


「ええい、いちいち意地の悪い言いかたをしおって……!」



 アルが悔しそうにうなった。


 アキラはつい、口を挟んだ。



「確かにアルさんは自力飛行を苦手としていました。でも一昨日おとといの集会でボクと組んで練習した時、短期間ですごく上達されてました。そのアルさんでも 〔回りこみ〕 を実践できなかったとなると、ボクもできる自信ありません」


「アキラ殿……!」


「坊主の言うとおりだ。アルほど下手じゃなくても、オレたちにもごとじゃねぇ。そもそもオレたち全体の自力飛行レベルがお話になんねーほど低いってんだ。この特訓が終わるころまでにゃ全員 〔回りこみ〕 を使いこなせるくらいになってよーぜ」


「上手くまとめおって……が、異論はない」



 パン! とサラが手を叩いた。



「共通の課題も見つかって、最初にしちゃ上出来な成果だね!」





「じゃー今度は逆に 〔空中騎馬戦スタイルから空中格闘戦スタイルに対して有効な戦法〕 について気づいたこと! 本番で空中格闘戦をするみんなにとっては、敵がやってこないか気をつけないといけないことだね。またチームごとに報告、まずはあたしと少年のペア!」



 サラの司会で、話しあいは次の議題に移った。


 先ほどと同様〔やったほう〕が先に報告する。



「あたしが見つけた戦法は 〔騎乗物による体当たり〕 だね。さっき言った戦法で少年が下にもぐりこもうとしてきたのを、そうさせないようこっちも高度を落としたら、偶然あたしの空亀が少年にぶつかっちゃったんだけど」


「はい……交通事故みたいで怖かったです……」



 空亀と頭と頭でごっつんこした時のことを思いだし、アキラは暗い声で報告した。地上で起こることにたとえるなら、車にかれたようなものだ。


 ゲームでなかったら死んでる。



「あはは……やられたほうの少年もこのとおり、アレは有効だと認めてます! ではお次、エメっちアンドバニーちゃんペア!」



 セイネバニーちゃんが報告する。



「わたしは、何度目かにエメロードさんがこちらの空亀に乗りこもうとした時、取りつけないようにって空亀をスピンさせたんです。そしたら空亀のヒレでエメロードさんをねちゃいました」


「交通事故みたいで怖かったわ~」



 エメロードが自分と同じことを言っていて、アキラは苦笑いした。



「……うん! あたしたちのとおんなじだね! じゃー最後、お侍さんと小人さんペア!」


「おう。アルが1回だけ〔回りこみ〕を上手くやって、左からオレに間近に迫ってよ。武器で防御すんのは間に合わねーと思ったから、空亀を盾にするように動かしたんだ。そしたら」


「ええい、自分で言うわ! 目の前に迫った空亀をよけられず、自らその横腹に突っこんでしもうた! 交通事故みたいで怖かったでござる‼」


「みんな同じじゃん⁉」



 サラがツッコんだことで、オチがついた。


 そう思ったが、まだ終わっていなかった。



「あ、クラっちから着信だ。みんな、ちょっと待ってて」



 サラの動きがとまった。


 彼女と同じく 〔計画〕 の空中騎馬戦同好会側の協力者で、ここには来ていないミーシャとクライムは同好会の決闘に向けた練習会に参加している。


 そこで同好会の者たちが対空中格闘戦用に有効な技を発見したら、すぐさまこちらに報告してくれる手はずになっている。


 しばらくして──



「……お待たせ。スパイしてるクラっちから報告。同好会では、空中格闘戦相手に有効な戦術として、今みんな 〔騎乗物による体当たり〕 を練習してるって」



 今度こそ、オチがついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る